幕間

幕間×寒村×不死鬼 前編

 フサルク星の事件解決からひと月。

 ゲートを開いて元の惑星に帰還した俺たちは、旅の途中、一つの村にたどり着いた。


「師匠師匠、なんだか寂しい村だね」


 ササリスの言うとおりだった。

 活気が無く、賑わいが無い。


 村には人が住んでいるにもかかわらず、お互いがほとんど交流を取ろうとしておらず、会話がどこからも聞こえてこない。


「あまり歓迎されてないみたいですね、クロウさん、どうしますか?」


 ヒアモリが不安そうに言った。

 村人たちと視線を合わせようとしても露骨に避けられる。


 こんなムードの村に泊まるくらいなら、野宿の方が安心できそうだ。


「そうだな、素通りするか――」


 村を突っ切ろうとした、その時だった。


 物見やぐらから青年が、大きな声で村中に声を響かせる。


「き、来たぞ! 金皇と銀皇だ!」


 ついさっきまで静かだった村が、嘘のように騒がしくなる。


 わーわーと騒ぎながら、身だしなみを整えたり、列を成したりと、せわしなく動いている。


「師匠師匠、お偉いさんが来るみたいだよ? せっかくだから遠くから見て行こうよ!」


 ササリスが俺の袖を引っ張る。


「見てどうするんだよ」

「隙あらば財布を盗むとか」


 そうだよね、ササリスはそういうやつだよね、知ってた。


「く、来るぞ……っ!」


 村人の誰かがそういうと、緊張が走った。

 空気が重苦しくなる。


 木々さえ鳴りを潜めるうっそうとした茂みの陰から、体の大きな影が二つ、おもむろに現れる。


 隆々の筋骨、額から突き出した二本の角。

 そいつらはまさしく、鬼だった。


「げっげっげ! 出迎えご苦労、村の衆!」

「おいおいどうした、俺様たちがせっかく足を運んでやったんだぞォ? もろ手を挙げて喜べよ!」


 金色の角を持つ方が、どしんと震脚すると、村人たちはさらに委縮する。

 そんな中、一人の老人だけが立ち上がり、礼をする。


「お、お待ちしておりました、金皇殿に銀皇殿」

「おお、村長! 息災で何よりだ!」

「これも、金皇殿と銀皇殿がこの村を縄張りと宣言していただいたおかげにございます。あれ以来魔物が寄り付かなくなり、我々一同――」

「あー、そういう長いのいいから。それより、わかってるよな」


 銀の角を持つ方が面倒くさそうに、金棒でリズムを取りながら、村長をせかす。


「生贄だよ、今月の。さっさと持ってこい」


 村長の顔色が悪くなっていく。


「ぎ、銀皇さま……! 見ての通り、もうこの村は限界です、これ以上若者が連れ去られては、滅びるのみです!」

「だからどうした」


 村長による必死の訴えを、銀色の角の鬼は取り合わずに一蹴する。


「俺様たちが来て感謝してるんだろォ? だったら、見合った報酬を出す。それがテメエらのいう礼なんじゃねえのかァ?」

「が……っ!」


 金棒の柄側で、鬼は村長を叩き潰した。

 勢いよく地面に叩き落された村長の頭からは血が流れている。


「なあ村長よォ、俺ァあんたが好きだ。できるなら殺したくねぇ。だから、な? おとなしく銀皇の言うとおりにしな? 死にたくねえだろォ?」


 村長はギッ、と金色の角の鬼を睨んだ。


「何だその目は」


 息を呑むようなにらみ合いが、寸秒だけ続いた。

 だが、その静寂は長くは続かなかった。


「お待ちください」


 村長ではない、一人の少女が、遠方から楚々として、彼らの元へと歩み寄ってくる。


「このたび白羽の矢を頂きましたヤシロ、と申します。ご挨拶が遅れたこと、お詫び申し上げます。ですので、なにとぞ長の命だけはご容赦ください」


 少女は深々と頭を下げた。


「ば……ヤシロ! どうして出てきた!」

「それが、私がこの村のためにできる、一番の貢献だからです」

「だが」


 二人の間に、影が落ちる。

 体の大きな銀の角の鬼が歩み寄ったからだ。


「こいつぁいい女だ! 若く、生気に満ちた目をしてやがる。さぞうまかろうな!」

「お、お願いです銀皇さま! なにとぞ、なにとぞヤシロだけは! その子には思い人がおり、ようやっと縁談が決まりそうなのです!」

「げっげっげ! そいつを聞いてなおさらほしくなったぜ! それじゃあ、今月の生贄としていただいていくぜェ?」


 銀の角を持つ鬼が、おもむろにその巨腕を伸ばす。

 その手のひらが、少女を掴む、まさにその瞬間。


「――ぁ?」


 肩から先が、落ちた。

 肩口を見れば、まるで鋭利な刃物で切断されたように、ピンクの筋繊維と白い骨が顔をのぞかせている。


「いっでぇぇぇぇぇ! だ、誰だ……っ」


 言い切る前に、銀の角の鬼は不可視の斬撃により、細切れにされていく。


 否、厳密には斬撃ではない。


 彼を引き裂いているのは刃物ではなく、糸。


 その糸の元をたどっていくと、一人の少女にたどり着く。


「随分悪趣味な妖怪だね。あたしも混ぜてよ、その遊び」

「なんだぁテメェは」


 その正体は――


「名乗る名は無いよ、まして、これから死ぬ妖怪相手ならなおさらね」


 ササリス。

 糸使いの名だ。


「で、あんたはどうする? 逃げるなら好きにしな。そこのお仲間みたいにはなりたくないでしょう?」


 残った、金色の角の鬼に向かって、ササリスが警告する。


 だが、金色の角はげらげらと笑うばかりだ。


「どんなふうになりたくない、だってぇ?」

「……ぇ?」


 目を見開いて、ササリスが小さく驚きをこぼす。

 鋭い鋼線でズタズタに切り裂かれた銀色の角の鬼が、みるみるうちに再生していくからだ。


「ばぁ」

「なん、で」

「あんたらこの村の人間じゃねえな? なら改めて教えてやる。俺の名は銀皇」

「そして俺の名は金皇」

「旅の高僧の肉を食って以来、俺たちは不老不死の兄弟」

「つまり我らに敗北の可能性は一つもなし!」


 どん、と足並みをそろえて二匹の鬼が言う。


「さあ、逃げ出すのはどちらかな?」

「……化け物め」



  ◇  ◇  ◇

 あとがき


 このたび二巻の発売が決定しました!

https://x.com/D_shinbungei/status/1811328325304176957


 発売日は7月17日です!

 つまり明日です!


 二巻はヒアモリと会うところくらいからアルバスを倒すところくらいまでですが、なんと、八割近く書き直してます。(書き直しの理由は二巻あとがきに)


 パワーアップして、web版をすでにご覧の皆様も楽しめる内容請け合いですので、ぜひご購入ください!

 よろしくお願いいたします!


 あと、カクヨムにて連載中の新作

『モンスターがあふれる世界で最強にならないと生き残れない転生』

 →https://kakuyomu.jp/works/16818093079995970836

 もよろしくお願いします。

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