第10話 原点×にして×頂点

 弾ける。シロウを覆っていたエネルギーが、四方八方へと飛び散っていく。


ウィンのルーン核が持つ自浄作用か。なかなかの壮観だな」


 荒野に降り注いだ優しい光が、野原を作り出し、淡い色の花を咲かせ、風に戦がれていく。

 その光景を、親父の隣で眺めていた。


「親父殿、どうしてここに」


 フサルク星へはゲートが無いと移動できないはずだ。

 そしてそのゲートを開く手段は、俺がフサルク星へとやってくるときにフサルク星へと持ち込まれた。

 この星へ、親父殿が合流できるはずがない。

 少なくとも、頭の中で考える限り、この論証に誤りはない。


「俺はお前が思うより、はるかにすごいってことだ。見ておけ」


 そういうと、親父殿は何かの紋章を虚空に描いた。

 すると、空に弾ける淡い光に紛れて、世界に干渉する不思議事象が発生する。


「あ、あれ、ここはいったい」

「私はいままで、なにを」


 そこかしこに、突然、人が現れた。


 おいおい、冗談だろ。


「今回の事件で被害にあったフサルク星人。彼らのルーン核と、それに最もなじみ深い肉体を蘇らせた」

「んな、無茶苦茶な……」


 親父殿ってルーン魔法しか使えないよね?

 全25種類しかない文字の、どれを使ったらこんな規格外の奇跡が起こせるんですか。


「言ったはずだぞ、クロウ。ルーン魔法はうまく扱えば、ありとあらゆる現象を緻密に操れる、とな」

「いまのも、極点の一つか」

「フッ、そういうことだ」


 うーん。なんだろう。

 この人だけ別ゲーの世界に生きてない?

 明らかに世界観をぶち壊しかねないスペックしてるんだけど。


「さて、クロウ。俺を超える、と言ったな」


 親父殿は言う。いま一度問いかける、と。


「いま、お前の前に立つ男は、まごうことなき世界最強だ。それを、越えると、変わらず言えるか?」


 隣にいるだけで肌がぴりぴりする。

 空間がきしんでいる気がする。


 ササリスですら寄ってこない。

 孤高を極めた、近寄りがたい空気を親父殿は発している。


「超える。そういう星のもと生まれたから」

「フッ、そうか」


 突然、威圧感が消え失せた。

 親父殿は踵を返し、おもむろに歩き始める。


「親父殿、行くのか」

「ああ。それとも、いまから手合わせでもしてみるか?」

「冗談」


 実力差がわからないわけじゃない。

 親父殿は俺の常識の範疇を超えている。

 この男を相手に勝利を手にするためなら、俺もまた、理外の領域に足を踏み入れる必要がある。


「慌てる必要はないさ。覇道は一つ。いつか、あんたともぶつかる時は来る」


 そしてその時、道を譲るのは親父殿、あんたの方だ。


「またな、親父殿」

「ああ、期待しているぞ、クロウ」


 九章 天下覇道編 終了

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