好きな人の横顔

西しまこ

第1話


 高校に入ってね、あたし、好きな人が出来たの。

 弘樹くん。

 日直で、黒板を消さなくちゃいけなかったけれど、あたし背が低いから一番上の方、届かなかったんだ。そうしたら、さっと消してくれたのが、弘樹くん。そんなことって思うかもしれないけれど、嬉しかったんだよ。


 あたしの席は弘樹くんの斜め後ろだった。席が離れているから、横顔が見える位置。

 あたし、授業中は、授業を聴いたり本を読んだり、それから弘樹くんを眺めたりしているんだ。弘樹くんはいつも真面目に授業を聴いていた。すごいなあ、先生の言っていることもメモしているみたい。この間、ちょっとノートをちらっと見たら、すごくきれいな字で書いてあった。

 あとね、部活をしている姿をいつもこっそり図書室から見ていたの。陸上部で走ったり幅跳びしたりしていた。いいなあ、運動出来て。あたし、運動は苦手なんだよね。かっこいい。


 ある日雨が降ったの。帰るときに。傘忘れちゃったなあって思ったら、弘樹くんが「僕、折り畳みもあるから」って、傘貸してくれたんだ。弘樹くんは覚えていないかもしれないけれど、あれからよく話すようになったんだ。


 でも、あたし、気づいちゃったの。弘樹くんてば、結構人気あるの! 弘樹くん、みんなに優しいんだもん。だめだめ! あたしが先にいいなって思ったんだから‼

 あっ。宿題見せてあげてる。あっ。消しゴム貸してあげてる。あっ。数学教えてあげてる。……もう!

 それから、噂も聞いちゃったの。弘樹くん、中学のとき、彼女いたって。もう別れたみたいだけど、やっぱりなあ。そんな感じしたんだよね。

 

 あーあ、ライバル多いよなあ。って悩んでいたら、「彩香、どうしたの?」って弘樹くんが声をかけてくれた。

「弘樹くん」

 あたしは弘樹くんをじっと見た。いつも横顔見ているから、真正面って変な感じ。

 あれ? 弘樹くん、耳赤い? 

 あたしはもう一度、真正面から、弘樹くんをじっと見た。

「何?」って、弘樹くん、赤くなっているよね? 


 あたし、ちょっと嬉しくなって、弘樹くんの手をとって「ねえ、お昼ごはん、いっしょに食べよ?」と言ってみた。そうしたら、弘樹くんは「い、いいよ」って。

「ありがとう、弘樹くん!」

 にっこり笑って弘樹くんを見たところで、チャイムが鳴った。

「じゃ、お昼休みにね」

「うん」

 弘樹くんは手をちょっと振って、自分の席に戻って行った。そしてあたしは、弘樹くんの横顔を眺める。


 この席、好き。

 弘樹くんの横顔を眺められるから。――あ。弘樹くんがこっちを見た。

 あたしは笑って、ちょっと手を振った。

 お昼休み、楽しみだな。

 弘樹くんも、あたしのこと、好きだといいな!



   了



「異世界でドラゴンをかう、ペガサスもかう、えーと次は何だっけ?」

https://kakuyomu.jp/works/16817330654897114257

に出てくる、彩香と弘樹の高校1年のときのお話です。



一話完結です。

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