第5話 『シャワー借りてもいいかな』
……
…………
シャワーを終えて九条さんの元へと戻る。
九条さんはまだすやすやと寝ていて、寝顔……可愛いなと思う。
こんな美人が、なんで突然彼氏でもない俺の看病にきて、至れり尽くせりした後にヤらせてくれて、ベッドで寝てるんだろ。
もうすっかり熱から覚めた俺は目の前の現実に不思議に思っていた。
「……ん、あ、あれ、おはよお?」
九条さんが目を覚ました。
「あ、おはよう……ございます」
してしまった後、しかも熱が下がった後なので、少し気まずい。
「……二ノ宮くん、顔色よくなったね。熱、さがった?」
「あ、はい、おかげさまで」
「そっかあ、よかった」
九条さんは、小さくあくびをする口元を手で隠しながら、ゆっくりと身体を起こした。
「二ノ宮くん……ちょっと頭ぼーっとするから、シャワー借りてもいいかな」
呼び名が、“二ノ宮くん” になってることに少し寂しさを感じつつ、
「あ、はい。どうぞ、好きに使ってください。タオルとかも脱衣所にあるので……」
俺がそう言うと、
「ん、ありがとお。じゃあ、ちょっとおかりするねー」
九条さんはふんわりとした笑みを浮かべると、ふわふわとした足取りでシャワーを浴びに行った。
……
…………
「二ノ宮くん……シャワーありがと」
九条さんが火照った顔をして風呂場から出てきた。ちょっとまだ顔はぼーっとしている。まだ眠いのだろうか。
そう思いつつ
「え、ああ。おかえりなさい」
そう答えた俺の肩に……ぽてっと九条さんはもたれかかった。
え、何。いい匂い……
唐突な九条さんの重みとその香りにドキッとした。けれど、
「え、待って、九条さん……熱ありません!?」
九条さんの身体が熱いことに気付いた。赤くてぼんやりしていたのは、シャワーの熱に火照っていたわけでも、眠くてぼんやりしていたわけでもなかったらしい。
「はは、風邪ひいちゃったかもー。んー、残念だけど、かえろっかなー」
九条さんはそんな事を言う。
なんでだよ、『明日日曜日だし、うつったら泰樹が看病してね?』なんて言ってたくせに。
「九条さん……もう暗いこんな時間に熱あるのに、そんな体で俺から逃げようと?」
「……にげる? じゃあー、つかまえてて? なーんてね。うそ。めいわくかけたくないだけだよ」
弱々しい火照った顔でそんな事を言う。
「何言ってんですか、もう。散々俺のこと看病しておいて、自分は看病させないつもりですか?」
「えー? なに、もう。二ノ宮くん、かっこいいなー?」
ふわふわっとした甘い口調で九条さんは言った。
「もー。完全に俺の風邪うつってるじゃないですか。ベッド行きましょ」
「べっど? もっかいする? ……いいけどさ、わたしは、なんもしてあげれそうにないよー?」
九条さんはこの期に及んでそんな事を言う。
「……九条さん、さすがに怒りますよ? 熱ある人に何かさせようとするほど、さすがに俺、人間終わってないですよ。大人しく看病されてください」
俺の言葉に、九条さんはへにゃっと笑ったあと、俺の身体にもたれかかりながらその場に倒れた。
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