第8話 『好き勝手、やりすぎた?』


「ところで九条さん、気になってること聞いていいですか」


「……なに?」


「なんで途中から、“二ノ宮くん” に戻ったんですか」


「あ……それは、その、二ノ宮くんの熱が下がったから……その、夢だと思ってくれないなら、ダメかなあ、みたいな……」


 九条さんは目を泳がせながらしどろもどろだ。


「つまり、俺に熱がある時の方が、好き放題やりたい事曝さらけ出せてたって認識でいいですか」


「……うん。ごめんなさい、好き勝手、やりすぎた?」


 九条さんは、上目遣いで伺うように聞いてきた。


「そうですねぇ……好き勝手……されてた内容が割と嬉しかったので、もうしてくれないと思うと悲しいですね。……もうバレちゃったんだし、俺にくらい隠さなくてもいいんじゃないです? 九条さんは、あれこれ気を使いすぎなんですよ」


「……そう、かなあ……」


「もう俺、九条さんが撫でられるの好きって知ってしまったんで、たくさん甘やかしますね?」


「……それは、嬉しすぎる」


「でも……もう俺、九条さんの彼氏って事でいいんですよね? 俺、割と独占欲あるので、九条さんが他の男の看病行ってこんな事してたら、いやなんですけど」


「え、え、それは大丈夫。……他の人にとか、しない。むしろ……男の人とか、苦手」


「それは……信じられないかな。九条さん、美人だし、モテそうだし、それなりに経験してそうです」


「……それは……失礼だよ?」



 だってそうじゃないか。九条さんみたいなモテそうな人が、俺みたいなモテない男のところに看病に来て、至れり尽くせりしてくれた後にヤらせてくれて彼女になってくれるとか、普通ならありえない。


 いろんな男のところに行って男慣れしてるのではないかと、疑う俺の気持ちも仕方ないと思う。


「それなりの経験がない人が、あんな……“めちゃめちゃにしていいよ” なんて、言わないと思いますよ」


 それでも惚れてしまったわけだけど。惚れてしまったからこそ、嫉妬するわけで。


「……それは、……ちょっと、自暴自棄だった、ってのは、ある」


「自暴自棄?」


「うん。なんか……もういろんなことがイヤになっちゃって。でも、そりゃ、経験があるないで言ったらあるけど、人数で言ったら……二ノ宮くんとする前は……ひとりだけ、だよ?」


 九条さんは、そんな意外なことを言った。

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