第7話 『……して欲しい、よ?』


「充分……ですか。うそつき」


「え?」


「添い寝、されたら嬉しいとか言ってませんでしたっけ。それとも、もう必要なくなりましたか?」

 


 俺は九条さんを抱きしめて撫でながらそっと言った。

 九条さんは、散々尽くしてくれたくせに、自分の欲は言わなさすぎだろう。でも、添い寝して欲しい、たしかにそう言っていたじゃないか。


「え、それは……その、……して欲しい……けど」


「けど、なんですか」


「……よくばり過ぎかなって」


「じゃあ、どうします? やめます? されたいです? されたいって言わないと、しませんよ?」



 少しそんな意地悪を言う。散々自分は俺にしておいて、自分がして欲しいことは欲張りだなんて、どの口が言うんだ。


「う……うう、して、欲しい……されたい、です……」


 九条さんは赤い顔をさらに赤くして、恥ずかしそうに顔を布団に埋めながら言った。そんな九条さんは、普段の九条さんより弱々しくて、先輩である事をつい忘れてしまう。


「はいはい、じゃあ、添い寝して抱きしめて撫でてますから、病人さんは大人しく寝てください?」


「……はい」


 九条さんは、抱きしめる俺の胸にピタッと頬を寄せて小さく頷いた。


 俺もそんな九条さんを抱きしめて、ただ頭を撫でる。そして九条さんの寝息が一定になるのを見守ってから、俺も夢の中に堕ちて行った——



……

…………


 朝が来た。目を覚ました瞬間に、九条さんと目が合った。


 俺に抱きしめられたままの九条さんは、俺より先に起きていたらしく、俺の胸元から上目遣いで俺の顔を見つめていた。


 その顔は赤いけれど、まだ熱はあるのだろうか。


「おはようございます、九条さん」


「お、おは……よお……」


 九条さんのおでこに手を当てる。うん、熱は下がったようだ。


 けれど九条さんはまだ赤い顔をしていて。


「熱、下がったみたいですね。よかった。まだ、しんどいです?」


「あ……」


 九条さんはなぜか目を泳がせた。


「……熱下がったけど、まだ、撫でてもいいですか?」


「うん。撫でて……ほしい」


「……可愛い」


 俺はそのまま九条さんの頭を撫でた。

 九条さんは赤い顔をしたまま、なんだか嬉しそうな顔をして俺の胸に頬を寄せていて。


「……俺、まだ夢見てるみたいです」


「わ、私も……」


「……キス、してもいいです?」


「う、うん。して欲しい……」


 俺はまた、九条さんの唇にキスをした。九条さんの唇が気持ちよくて、九条さんの漏らす吐息が色っぽくて、俺に、唇を預ける九条さんが可愛くて、そのまま何回も重ねた。


「九条さん……昨日、気に入ったら彼女にして、とか言ってませんでしたっけ。あれ夢でしたか?」


「え、夢じゃ、ない。して……欲しい、よ?」


「じゃあ……九条さん、俺と、付き合ってください」


「こ、こちらこそ、お願いします……」


 九条さんは、俺の服をきゅっと掴んで、そっと俺に抱きつき真っ赤な顔してそう答えた。


 それは、可愛過ぎる彼女が出来た瞬間だった。

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