第6話 『今度は俺がデロデロに甘やかす』
……
…………
寝てしまった九条さんをベッドまで運んで、そっと寝かせて布団をかけた。
おでこを触ってみるとかなり熱い。完全に高熱の部類。
……俺の風邪、しっかりうつってるじゃん。超健康優良児と自負していた俺でさえ、なかなか辛かった風邪。こんな弱々しい九条さんならなおのこと辛いのではないだろうか。
少し、罪悪感を抱いたりして。熱にうなされて夢だと思いながら聞いていた九条さんの言葉を思い出す。
『そう? 二ノ宮君が夢だと思ってくれるなら、看病する変わりに甘えたいなー。今日、泊まってもいい?』
完全に今はもうそれが現実だったと理解している俺は、今度は九条さんをデロデロに甘やかして今日は帰さないと決めた。
……
…………
「九条さん、九条さん。ごはん、出来ましたけど、食べませんか? 薬飲んだ方がいいと思うので……」
俺の言葉に九条さんが目を覚ました。
「ん……ごはん?? おなかすいてない」
ぼーっとした弱々しい声で言う。
「でも薬飲んで欲しいし……食べさせますからひと口ふた口くらいは無理ですか。九条さんが作ってくれたシチューで、軽めのリゾット作ったんですけど」
「……つくってくれたなら、たべたい」
九条さんは子供みたいな声で答えた。いつもあんなにお姉さんみたいなのに。
「はい、じゃあ、身体起こしますからねー?」
「んー」
九条さんはやっぱりどこか子供みたいで。俺に身を委ねながら身体を起こした。
「はい。じゃあ、あーんしてください」
「ん、あ——ん」
素直に開けられた九条さんの小さな口に、リゾットを運んだ。
「おいしー」
リゾットを食べて、顔をへにゃりと緩ませながらそう言う九条さんは、そのまま少しだけ、涙を浮かべて
「……おいしいなあ。ゆめみたい」
そんな事を言った。
「そりゃあ、九条さんが作ってくれたシチューが元になってますから、美味しいのは当たり前です」
「んー? ちがうよー? 私がつくって自分でたべたんじゃ、こんなにおいしくならないもん」
九条さんはやっぱりこどもみたいな顔をして笑った。
「じゃあ、とりあえず、薬、飲んでください」
そう言う俺に
「えー。やーだ」
九条さんはだだをこねた。
「なんで。薬飲まないとずっとしんどいままじゃないですか。飲まないなら口移しで飲ませますよ?」
ちょっとそんな冗談を言ってみたら
「じゃあ、飲ませてもらおっかなー?」
へへへっと笑いながら九条さんは答えた。
……口移しって、九条さんは俺にそんなことされていやじゃないのかよ。……どこまで俺を、受け入れてんだよ。
少しそんな事を思ったけれど
「はいはい、冗談はそのくらいにして、自分で飲んでください?」
そう薬とコップを渡すと、
「あーあ。せーっかくまたちゅーできると思ったのになー?」
そんな事を言うから、
「……キスくらい、薬飲ませるためじゃなくてもしますけど」
つい、そう言うと
「……じゃあ、して?」
少し色っぽい顔でいうから、
「仕方ないですね」
火照る九条さんの少し熱くなった唇に、そっと俺の唇を重ねた。
「……他に、九条さんは何して欲しいですか? なんでもいいですよ。俺も散々してもらった後なので」
そう言うと、九条さんは少し気弱な声で、
「……抱きしめて、なでてほしいなー」
そんなことしか言わないから。
「はあ、それくらい。いくらでも。
もっとわがまま言って欲しいくらいです」
九条さんを優しく抱きしめながら頭を撫でた。
そんな俺に
「充分すぎるくらい、うれしいよ?」
九条さんはそう言って、またへにゃりと笑った。
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