第9話  九条さんの過去


 九条さんは、その見た目の良さから、子供の頃からよく犯罪めいたことに合っていたらしい。


 痴漢、覗き、付き纏い、ストーカー、そういう事に合い続ける中で、だんだん男性に対して恐怖心を抱くようになり、中学からエスカレーター式の女子校に通っていたらしい。


 ほぼ男とは無縁の青春時代を送る中、それでもさすがに大学生になって彼氏が出来た。その彼氏はひとり暮らしだったので、彼氏のために料理や掃除、洗濯まで九条さんは独学で覚えて、ほぼ通い妻状態になっていたのだと言う。

 

 けれどその彼氏は大学卒業後、就職先が見つからずフリーターに。九条さんは今の職場に就職し、彼氏との間に格差が生まれてしまった。


 九条さんは、たぶんもともと一途で尽くす性格なんだろう。それでも彼氏のことが好きで尽くしていたらしいが、付き合っている年数が五年も超えると、周りからはなぜ結婚しないのかと煽られるようになった。


 しかし、その時の彼氏はまだ二十代前半のフリーター。彼氏本人は、まだ結婚する気にはなっていなかったらしい。


 なのに周りからははやされるし、九条さんもなんとなくその気になっていた。それに耐えられなくなったのか、彼氏はだんだん女遊びをするようになり……九条さんは雑な扱いしかされなくなった。


 その時二人はもう九条さん名義の部屋で同棲していて、家事全般は九条さんがやっていた。彼氏はもうそれが当たり前になっていて、優しくしてくれることもなくなって、だんだん帰って来なくなった。


 数週間、彼氏が帰って来なくなったので、九条さんは“会いたい” とメッセージを送った。


 けれど帰ってきた返事は“別れよ” そんな一言で。


 そんな別れ方をしたから、部屋の中には彼氏の持ち物は残ったままで、心にぽっかり穴が空いたままずっと整理がつかず、いい加減他に好きな人でも作って忘れたい、そう思っていた。


 けれど周りの男たちは下心見え見えな誘いばかりで、もともと男性が苦手な九条さんにとっては苦痛でしかなく。


 仕事は仕事で、九条さんの人あたりの良さから、苦情対応をさせられる事が多く、ストレスはどんどんと溜まっていって、誰かにすがりたくなっていた。


 そんな時、一緒にクレーム対応したのが俺。歳下の俺があっさりクレーマーを、逆にお得意様にしたところに惹かれ、そしていくら一緒に仕事をしていても自分に言い寄ってこないところに安心感を覚え……実は密かに、俺に好意を寄せてくれていたらしい。


 だから俺と仲良くなりたくて、俺のSNSを覗いていた。すると、俺が風邪ひいて寝込んでると知って、いてもたってもいられなくなった。


 そう言う事だったらしい。

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