最終話 『大切にしますよ』
……九条さんを大切にしなかった前の彼氏には少し腹立たしさも覚えるが、大切にしていたら九条さんは今ここにいないわけだから、まあ、恨むことはしないでおこう。
……そんな事より、俺のSNSって……
『だー風邪ひいたー。やばー。食材なんもねーし。こんな時、彼女が差し入れ持って看病しに来て甘やかしてくれたらいいのに。何で俺には彼女がいないんだ。はぁ、ふて寝しよ。夢でもいいから起きたら彼女出来てたりしないかな』
……俺の欲望まみれのあれ、九条さん、見てたのか。
九条さんの一連の行動の意味がわかったところで、恥ずかしさが込み上げた。
俺は九条さんを抱きしめて、優しく頭を撫でた。
俺……九条さんがあまりに美人だから、男には苦労していないと思ってた。あまりに美人だから……俺には、釣り合わないと思っていた。
けれど、俺を必要としてくれるなら、そんな嬉しい事はない。
九条さんは美人だけど、それだけじゃなくて。いつも朗らかなところだったり、仕事熱心だったり、気が利いて優しいところだったり。
俺だって、好意がなかったわけじゃない。ただ、俺が誘ったところで迷惑だろうと、そう思っていただけ。
「九条さんてさ、仕事の時はお姉さんっぽいなーって思ってたけど、実は……甘えん坊?」
九条さんを抱きしめて撫でながら、そんなことを言ってみた。
「……そう、かも。本当はずっと、誰かに抱きしめて撫でられたかった。尽くすのは好きだけど……やっぱり私も、大切にされたい」
照れながら言う九条さんが可愛い。
「もちろん俺、尽くされるの嬉しいけど、……尽くされるばかりはいやなんで、大切にしますよ?」
俺の言葉に九条さんは嬉しそうだ。
「……うん、二ノ宮くんなら、大切にしてくれそうだなーって思ってた。クレーマーの人にすら、優しかったもんね」
「そうでしたっけ」
「うん。私はただ怖くて、新しいのと交換すればいいと思ってたのに。二ノ宮くんは、ちゃんとあのおじさんの話を聞いてあげて、誠実に対応して……結果、喜んでもらってたもんね」
「そんな事もありましたね。でも、俺、本当はあの時、怒鳴られるばかりの九条さんを助けたいなって、ちょっとそんな事思ってたんですよ」
俺の言葉に、九条さんはまた嬉しそうな顔をして。
「それは……嬉しいな」
そう言った。
「ところで九条さんは、俺の呼び方、二ノ宮くん、のままでいいんですか?」
俺が熱ある時、下の名前で呼んでたくせに。
「……二ノ宮くんがいいのなら……泰樹って……呼びたい」
九条さんの顔がまた赤くなって来た。
「じゃあ、俺が呼ぶのは、九条さんのままでも?」
「……そりゃ、梨沙って、呼ばれたい、けど……」
「けど?」
「恥ずかしいなーって」
「可愛い」
照れて赤くなってる姿に、少し笑ってしまう。
「た、泰樹って、少し、いじわるだよね」
「梨沙が、何してもいいとか言ったから、少しいじめたくなりました」
「んー! ねぇ、恥ずかしい」
「あと、めちゃめちゃにしていいとか言ってたから……これからはめちゃめちゃに甘やかしますね」
「う、ばか。それは……嬉し過ぎて、また惚れちゃう」
「それは嬉しいなあ。それなら梨沙も、気を使ってばかりいないで、して欲しい事たくさん言ってくれたら、俺ももっと惚れちゃうかも」
「え、もっと惚れてくれるとか……最高じゃん」
清楚系美人でお姉さんみたいな先輩は、今はもう、めちゃめちゃ甘えん坊で可愛い、俺の彼女。
「ねー、泰樹、じゃあさ、わがまま言ってもいい?」
「はい、なんでも」
「これから……毎日、添い寝して撫でて欲しい」
「それは、俺も嬉しい。じゃあ、俺の部屋で暮らします?」
「へへっ荷物持って来なきゃ」
その日から、夢のような日々が始まった。
—— ねぇ、泰樹……好き
実は……泰樹がはじめてなんだよ
自分から好きになったの
一回好きって自覚したら
加減、分かんなくなっちゃって
私を、全部あげたくなったんだ
だからあの言葉は……
泰樹だから言ったんだからね
——そんな梨沙の本音を知るのは、
まだ少しだけ、先の話。
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NEXT→エピローグ 『デロデロに溶ける甘い時間』
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