第2話 『今日は私が彼女ってことでいい?』


……

…………


「二ノ宮君ー? 二ノ宮君、ごはん、出来たよー?」



 目が覚めてもやっぱり目の前には九条さんがいて、俺の枕元で俺の至近距離で俺の顔を覗き込んでいる。


「あれ? 九条さん。これ、夢じゃないんですか?」


「あれ? 二ノ宮君、夢だと思ってるの?」


 質問に質問で返された。一体どうなってるんだよ。夢じゃなかったら、一体なんだっていうんだ。


「まあ。だって、九条さんが俺の部屋にいるなんて、あり得ませんから」


「そう? 二ノ宮君が夢だと思ってくれるなら、看病する変わりに甘えたいなー。今日、泊まってもいい?」


 やっぱり九条さんは、夢みたいな事を言っていて。俺はもう現実なのか夢なのか分からない。


 いや、こんなあり得ない事が起こるなんて、現実なわけがない。ああ、やっぱり俺、夢を見てるんだ。


「ああ、やっぱり俺、夢見てるんですね。じゃあ、せっかくなのでいっぱい甘えられたいですね。泊まってくれるなら、添い寝とかしてくれますか?」


 つい、そんな調子に乗った事を言った。


「じゃあー、今日は私が彼女ってことでいい?」


 九条さんは、やっぱり夢みたいな事を言う。


「それは、嬉しすぎますね」


 だから俺も、そんな事を言う。すると九条さんは


「じゃあー、まずは泰樹たいき、お粥作ったんだけど、食べれる?」


急に俺の事を下の名前で呼んできた。


 マジか……俺、どんだけいい夢見てるんだよ。

どうせなら、このまま夢に溺れていよう。


「んー、少しなら」


 返事する俺に


「じゃあ、食べれる分だけ食べて。あーん」


程よい温かさまで冷まされたお粥を九条さんは俺の口元に運ぶ。


 俺も素直に食べさせてもらう。


 なんだこれ、幸せじゃん。俺、こんな幸せな夢見るなんて。実はもうすぐ死ぬのかな。


 あまりのことにそんな事を思いながら食べさせられた。


 そんな俺を見つめる九条さんは、うんうんと頷きながら満足そうで。


「よしよし、全部食べれたね。じゃ、薬買ってきてるから、飲んで?」


「え? あ、はい、ありがとうございます」


 手渡された薬を、手渡されたコップの水でぐいっと飲んだ。


「後さ、スポーツドリンクと、ゼリーと、桃缶と、プリンも買ってるけど、食べたいのとか、飲みたいのとか、ある?」


 九条さんはさらにそんな事を言う。

 至れり尽くせりじゃないか。ヤケにリアルな夢だなあ。


「いや、メシ食って薬飲めただけで充分です」


 せっかくの夢なのだからもっとおいしいこと言えればいいのに、夢の中でさえクソ真面目な俺はそんな事を言った。


 薬を飲んで一呼吸した後、


「ねー泰樹、結構汗かいたね。拭いてあげよっか。脱いで?」


「えっ??」


 戸惑っていると


「泰樹は病人さんだもんねー? 看病してあげるから、そのままじっとしてて」


 そう言って、脱がされた。なんか分からないうちに、そのままちょうどいい温度の濡れタオルで身体を拭かれる。


 なんだよ、これ…… 不思議な気分だ。


 少し熱でぼーっとしながらそのまま身体を拭かれていると


「よーし、終わった! ねぇ、泰樹。さっき、いっぱい甘えていいって言ったよね? 添い寝して泊まってもいいって言ったよね?」


「え? あ、はい」


 すると九条さんは半裸の俺の身体に抱きついた。

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