第2話 菊池陸、堂々と登場

私の胸が膨らみだしたのは、小学校4年生の頃だった。特に体育着に着替えるのが嫌だった。胸が、特に目立ったからだ。思春期の男子は、遠慮も無しにジロジロ杏花の胸を見る。だから、短距離走などは、行き当たりばったりの理由で見学をしていた。だって、から。もう、男子の目は一直線にそこに集中する。



やっと、開き直ったのは、高校に入ってからだった。それには、ある、があった。




*****




(!なに!?なんか…胸…触られてる…って言うか…揉まれてる!?ち!痴漢!!??)


高校に入って3日目。電車通学になり、朝、満員電車に乗るようになった杏花は、この日、初めて痴漢に遭った。


(ど…どうしよう…!?いや!!怖い!!気持ち悪い!!)


どんどん顔が青ざめて行く。京香は泣く寸前だった―――…。


「いっでぇぇ!!」


手首を捩じられ、高々とその痴漢の手を持ち上げた男の子が、


「ふざけんな、このエロじじい!駅員に突き出してやるから、覚悟しろ!!」


「!」


杏花にとって、その姿は、まるで、救世主…!だった。


そして、2人で、高校の最寄り駅で降りると、その痴漢を駅員に引き渡し、2人で高校に向かって歩いた。


「あ、ありがとうございました…。本当に…」


「いや、怖かったろ?あんなんマジで。あんた、何年生?」


「い、1年です」


「へー、俺も。菊池陸きくちりく。よろしく」


「あ、どうも。姫野杏花です。よろしくお願いします」


「いいよ、敬語は。おないどしなんだから」


「あ、うん。でも、助かったよ…。滅茶苦茶怖かった…」


「こういうの、よくあんの?」


「な、ないよ!!初めて!!……だけど……私、ちょっと…なんて言うか…」


「うん。だろうな。みりゃ分る」


「…!それって…セクハラだよ?」


「だな」


「菊池くんは何組?」


「4」


「私、7組」


「あー!!」


「あー…って?」


「俺らのクラスの男子が言ってたんだよ。7組にスッゲー可愛くて胸がでかい女子が居るって!!」


「…だから、いちいちセクハラだってば!」


私は、少し、本気で怒った。


「怒らせたところ悪いけど…」


そう、菊池くんが言った後、またその次に発せられた言葉に、私は耳を疑った。


「俺ら付き合おう?」


「………はぁああ!!??なっなんで、いきなりそうなるの!?だって、だって、さっき会ったばっかだよ?挨拶した程度だよ?名前も知ったばっかだよ!?クラスだって…同じ1年生同士だってことも知らなかったんだよ!?」


「だよな。でも、俺、杏花が気に入った!てか、胸でかい子すき。通学電車で、助けた朝は、毎朝、胸もまして!!」


「はぁあぁあぁあ!!??」


なんじゃこいつ!!とは思ったが、ここまで裏表ないスケベな男は初めてだ。


こいつは変態。そして―――…。







「まぁ…良いか…」





そう言った、私も、変態。

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