私のおっぱいは菊池くんのものなんで

第1話 可愛い私は朝から大変

その日、私はいつもの様に満員電車に揺られ、学校に向かっていた。そして、変な感覚に襲われる。


(ちっ!またか!)


痴漢だった。お尻ではない。私の胸に、器用に“わざとではない”風に肘を当ててくる。私の『大きさ』は、Hカップ。私は、スッと鞄を持つ手を変え、肘をよけた。しかし、その痴漢はしつこかった。ぎゅうぎゅうの電車の中で、素早く位置を変えると、また、逆の胸を肘で突いてきた。そして、その痴漢野郎は、行動をエスカレートさせた。


⦅君の胸、いい感触だね。これからにいかない?⦆


「…」


【君の胸、いい感触だね。これから遊びにいかない?】


「げ!!!!」


その男の声が、車内に流れた。私は、スマホの録音アプリで、男の声を咄嗟に録音し、音量を最高大にして、右手を高々と上げ、駄々漏らしにした。


「えー!!サイテー!!あの人痴漢じゃん!!」


「捕まえろ!!」


「よし!!」


「うわっ!!す!すみません!すみません!」


車内のたくましい、誠実な殿方たちにより、その痴漢は、御用となった。


「ありがとうございました」


私は、駅でそれぞれ降りていく助けてくれた男の人たちに、一人ひとりお礼を言って、自分の降りる駅まで、それを繰り返した。



*****



「また、痴漢に遭った!?」


「そう。今度は胸だった…」


私は、学校に着き、教室に入って、自分の席に着くと、深々と溜息を吐いた。すると、小学校からの同級生、南田紗枝みなみださえが私の机にそそくさと寄って来た。そして、紗枝に、今朝、また痴漢に遭ったことを愚痴として、紗枝にこぼしたのだ。


「で?今日は、どうやって追っ払ったの?」


紗枝は、心配3割、同情2割、興味5割の割合で聞いてきた。


「楽しそうに言わないでよ。こっちの身にもなって」


「あ、ごめん。でも、いつも、痴漢がこれ以上ないってくらい後悔する仕返しを、杏花きょうかはするからさ!」


「うーん…、今日は、かなり陰湿で、今時援交誘って来たから、その言葉を咄嗟にスマホで録音して、爆音で車内に流してやった」


「さっすが―!!」


「ほーんと、強いねー、姫野ひめのさん」


「あ、おはよ、幸田こうださん、田所たどころさん」


このクラスでも、リーダー的存在の2人。この2人も厄介だ。




何故、厄介なのかは、今度、話すとしよう。





私は、胸が大きいだけではない。お尻も良い形してるけど、言いたいことは、それでもない。


ほんっとうに、簡単に、短絡的に、端的に、何とも脆く言ってしまえば―――…、



私は、“可愛い”――――…のだ。



「本当に、大きな胸も困ったものね。可哀想」


「そうでしょ?でも、それ、男子だったら、セクハラよ。幸田さん。てか、女子同士でも、セクハラに入るかも知れないね」


「!」


幸田さんが、少し引いた。


「まぁ、こんなこと、日常茶飯事よ。特に、今の幸田さんの言葉も気にしてないから、気にしないで」


「…そんな男勝りの性格してるのに、なんで男子は気付かないんだろう?姫野さんが可愛くないこと!!」


「………可愛いから、気付かないんでしょ?それこそ、セクハラなんじゃない?田所さん」


「「!!」」


杏花に、そうそう易々と口では勝てない。行動でも勝てない。だから、女子からは嫌われる。紗枝は、杏花に何の恨みもないし、特に反発する理由もないので、全然友達でいられる。



それは…正直、杏花には、ありがたいことだった。

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