第4話 この変態、いつ変態ってバレるか不安

「姫野さん!俺と、付き合ってもらえませんか?」


ここは、お昼休みの屋上。いつも立ち入り禁止だが、生徒達は割と頻繁に出入りしている。その目的は、大体お昼か、今日のような告白か……。告白現場に誰もいない、というシチュエーションを作るには、この高校では、屋上の外側から南京錠がかけられるよになっているのだ。それは、脆く、ポンッと一蹴りしてしまえば、一発で開くが、それでも一応、みんな配慮して、それを砕くものは今の所、存在していない。





「私の何処がすきなの?」


「え…と…その…なんて言うか…」


「そう。じゃあ、これをあげる」


そう言って、杏花が取り出したのは、グラビア雑誌だった。


「!!」


杏花のすきポイントは、図星だったようだ。


「それを眺めて、我慢してて。私は、胸だけで付き合うような人と付き合いたくはないから」


そう言うと、南京錠を一応、時間をかけて開け、扉を丁寧に閉め、杏花は教室に戻った。


(う~ん…。でも、一番不純な動機で、付き合わされている気がするんだよな…菊池くんには…)


そう思っても、今まで、数えきれぬほど、痴漢を撃退してくれたのは、陸だ。その恩返しが、どうしたって思い浮かばない人だっているだろうし、そもそも誰が助けてくれて、その助けてくれた人が何処にいて、逢ってお礼がしたいのに、逢ってありがとうって直接伝えたいのに、出来ない。きっとそんな人たち、そんな事例ばかりだろう。



それを思えば、自分は、菊池陸と言う人に助けてもらったことを知って、ありがとうを言えて、その人が同い年で、同じ高校で、一度ならず、何度も何度も助けてくれる―――…。


贅沢―――…と言ってしまえばそれまでだ。


確かに、菊池くんは変態だ。だが、それを覆い隠すほど、この世には変態が溢れてて、オープンスケベの菊池くんが、最近では清々しくさえ思える。


うん。私も、十分変態に染まってきている。




*****




「わ、私、8組の木原朋美きはらともみって言います。菊池くん。好きな人、いるって本当?」


「え?」


「あ…あの…噂で、何となく聞いて…。誰か…までは知らないんだけど…。も!もし、もしもだけど、いなかったら、付き合ってもらえませんか!?」



これは、別の日の屋上の光景。今度告白されているのは、陸の方だ。一応の南京錠がかけられている。


「う~ん…すきな人ねぇ…」


「い!いないの!?」


「いてもいなくても、君は不合格だ」


「へ?」


陸は真面目な顔をして、その真面目に告白してきた女の子を見つめる。


「おっぱいが小さい」


「は…?」


スパコーンッ!!


杏花が陸の頭を、お箸箱で思いっきりひっぱたいた。


「イッテ――――――――ッ!!!」


「ごめんね。木原さん。私、つい南京錠がかけられる前に、一人でここでお昼食べてたの!この人と、私、結構仲良くてね、菊池くん、冗談言うのすきなんだよー!!上手な断り方を思いつかなかったんだと思う。でも、菊池くん、すきな人はいないらしいから、諦めずにがんば!!ただちょっと、今は恋愛モードじゃない、ってだけだよね?」


「そうなの?」


「そ・う・な・ん・だ・よ・ね!!!」


「お、おう!そうなんだよ!ちょっと、勉学に励みたくてな!ごめん!木原!!」


「あ…あ…は…はい…」



1人、残された木原朋美。



ガチャリ…。そっと、屋上の扉が閉まる。






むっぎゅ!


「やっぱ、これだな」


「この変態。君は告白の断り方をもっと考えなさい!!」

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