喰われるぐらいなら

これで拝読した同作者の作品は二つになるわけですが、やはり雰囲気が味わい深いです。沼のような世界観もさることながら、人間の描き方が本当に秀逸。サッパリとした読後感を好む方には合わない作品ですが、その毒を含んだ作風はクセになります。また、ふんだんに盛り込まれたブランド名や音楽も、本作の醍醐味といえるでしょう。登場人物たちの嗜好を婉曲的に表現しており、それとなしに暗い雰囲気を醸し出していて魅力的です。

そして、地の文の言い回しも上手い。皮肉が利いていて、尚且つその有り様を顕著に表しています。本作は中編ですが、一部焼き直しでも構わないから長編としても楽しみたいほどにクオリティが高かったです。書籍なら買っていたでしょう。ノワール×純文学。この表現が適切なのかはわかりませんが、本作はその名を冠するに恥じない仕上がりだと思います。

気になった方は是非どうぞ。また、この作品を面白いと感じた人は、同著の『チュニジアの夜』も読んでみてください。