誰もが必要とする場所でありながら、避けて通りたいと感じる職場。それが本編の舞台であります。
底辺高校出身のやさぐれ青年と、どこか影のある無表情な先輩女性とが織りなすお仕事小説です。職種は日常清掃員。主に公衆トイレなどにて、時には熱く時には切ないヒューマンドラマが繰り広げられます。
指導係の秋元さんが本編のヒロイン。賢くて堅物で仕事に誠実で、反面生きていくことには不器用な性格。そんな彼女がたまらなく愛おしい。
弱くて脆くて強い秋元さん。やさぐれ佐野くんの成長ストーリーであると同時に、彼女自身の、そしてすべての働く人々の救済の物語であると言えるでしょう。
自分の身の回りが気持ちよく保たれていることに、意識を向けたことがあるだろうか。
外出先のトイレ、店舗や公共施設の床。毎日過ごす家の中。なぜ、何も不自由を感じず心地よく暮らせているのか、考えたことはあるだろうか。
それらの環境は、魔法のように自然に整っていくものではない。そこには、必ず「誰か」の労力が注がれている。生きていれば必ず発生する生活の汚れを拭き取り、不足したものを補充し、限りなく出るゴミを片付け、床や窓を拭く。そういう、負の生成物を取り除いて「いつもと変わりない日常」を作る誰かの努力があるからこそ、普段の生活が回っている。
けれど、「いつもと変わりない日常」の有り難さに、私たちはあまりにも無関心だ。整っていることが当たり前だとは思っていないか。そこに誰かが注いでいる努力に、感謝の気持ちを持てているか。トイレの汚物を掃除し、床にへばりついた靴の汚れや食物のこびり付きを擦り取り、無神経に放置された紙屑やペットボトルを拾い集める人の努力に、思いを馳せたことがあるか。
いや、それ以下ですらある。この作品に取り上げられた清掃という仕事にも、それぞれの家の家事にも、全く同じことが言える。私たちは、そういう「日常の雑務」を担当する人を蔑む傾向がある。汚れたものを片付ける、レベルの低い雑務。それはとりあえず「自分より下の者」がする仕事で、自分の仕事ではない——。
「仕事のレベル」とは何なのか。「上」とは、「下」とは何か?
無意識に過ごす日常の中に潜む、驚くほどに歪んだ固定観念。誰のおかげで心地よく暮らせているかを考えもせず、日々黙々と見えない努力を続ける人を蔑み、嘲笑う。この作品には、そんな社会の不条理が、静かに淡々と綴られている。何かが解決するわけでもハッピーエンドを迎えるわけでもなく、積み重ねるように綴られる場面場面が、私たちにひしひしと訴えかける。普段通りの日常を作ることが、どれだけ大変なのかを。
「いつもの日常」を保つために、見えない場所、気付かない場所で注がれている努力の大きさ。その努力への感謝。自分自身を顧みながら読みたい現代ドラマだ。
不良高校に通う主人公・佐野は、清掃員がいることをわかっていながら意図的に汚すなどの悪ガキ。だが、高校を卒業した佐野は清掃員として働くことになる。
最初は素行が悪い佐野に対してイライラしながら読んでいました。けれど、仕事を通じて成長していくと、だんだんと無意識に彼に感情移入してしまうのです。「なんだあいつら!」と佐野と一緒に吠えることも多々ありました。
いるいるこういう人、と登場する人物に共感する部分もあって何度も頷いてしまいます。この物語を通して佐野が成長したように、読者も成長できます。現実世界への見方が少し変化するかもしれません。
とても面白くて胸がアツくなります。ぜひ読んでみてください。
読み応えがありすぎて一気に読んでしまいました。
この作品は、かなり素行の悪いヤンキー男子高校生が、嫌々ながらも就職への道へ進み、女性ばかりの清掃業の仕事へ就き、そこで一人の女性と出会い段々と成長を遂げていく物語です。
前半はくすっと笑える描写も多く、後半はどんどんと社会の物語へと進んでいきます。
彼は清掃という仕事を通して、様々な事に出会い、秋元という女性に色んなことを教えてもらいながら、清掃の技術、そして社会のことを、多方面から刺激を受けながら少しずつ成長していきます。
私自身も読んでいて、様々な学びも多く、清掃業という仕事に関してもかなり知識を増やすことが出来ました。
この物語を読めば、いつもの日常が少し変わるような感覚さえ覚えるのではないかと思います。
タイトルの意味も、ラストも、彼のここまでの道のりがはっきり見えて、最高、感動でした。
この作品に出会えて本当に良かったです。
少しでも気になった方はぜひ読まれてみてくださいね。
素晴らしかったです。本当に素晴らしかったです。
読了後しばらく涙が止まりませんでした。主人公の青年の成長に。
本作は、社会の下層に見られがちな「清掃員」にスポットを当てたお仕事小説です。
普段はあまり知ることのない清掃員の仕事内容を知り、苦労や工夫、やりがい、そして社会における重要性に気付くことができます。
筋金入りの不良で周囲に迷惑をかけることも厭わなかった主人公・佐野くんが、それまで舐めていた清掃員の仕事に就き、ロボットように働く女の先輩・秋元さんから多くのことを学んでいきます。
仕事とは何か。
生きることは何か。
荒れていた佐野くんがどんどん生まれ変わっていく様子に、胸が温まります。
自分の仕事に矜持をもって臨む秋元さんがとてつもなくカッコいいです。
エピローグで明かされるタイトル『リセット』の意味。
まるで世の中の見え方が変わるかのような、大きな気付きを得ました。
繰り返しますが、本当に素晴らしい作品です。ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。