最終話 目指す未来は決まりました。
「ユキノ」
「ここまで話を聞いても
「トウガこそ、わたしの目的を忘れないで。わたしが
「失敗したら死ぬかもしれないんだぞ。五日前、一の
「そんな……」
トウガの言葉が嘘ではないからこそ、ユキノは
「継承争いはすでに始まっている。これからも死人が出るだろう。その中にお前が入る可能性がないとは言えない」
急に目の前に迫る危険が生々しく見えて、ユキノはぶるりと震えた。
怖いの……? 違うわ、これは血がたぎっているだけよ!
ユキノは自分を
「ちゃんと覚悟はできてるわ。でも、死ぬ覚悟はしない。あなたと生きるために大王になる道を目指すのよ。死ぬことなんか考えないわ!」
ユキノはトウガにというより、自分に向かってはっきりと言い切った。
「二言はないか?」
「ないわ」と、ユキノは迷いなく答えた。
「なら、その命、預からせてもらおう」
どういう意味か問おうとした時、
思わず耳をふさいだユキノの前に、トウガが立っていた。
ユキノより頭一つ分高いすらりとした身体、毛皮の衣から出ている腕や脚は筋肉質で引き締まっている。聴こえる気配からユキノが想像していた通りの姿だった。
ただ、顔立ちは十年前とはずいぶん変わって、ぱっちりした目は切れ長に、あごもすっきりとして男らしいものになっていた。
こんな素敵な男の人になってたなんて……。
たった一度見ただけの子供の頃の顔立ちも整っていたが、ユキノの想像以上の姿に、思わずうっとりと見とれてしまった。
「姿、見せてもよかったの?」
ユキノははっと我に返って聞いた。
「お前は特別にする」
「ほんと? これからはこうして顔を見て話をしていいの?」
うなずくトウガを見て、ユキノは顔をほころばせていた。
まさかこんなに早くその日が来るなんて……!
「ユキノ、俺たち風の民の未来はお前に託す」
「託すって……?」
「俺たちのいただく王になってくれ。俺たちはお前に忠誠を誓おう。お前が目指す未来のために、俺たちを使え。お前の命は俺たちが守る。ただし、裏切りは死であがなってもらう」
トウガの真剣なまなざしが突き刺すようにユキノの目に入ってくる。
ドキドキ高鳴る胸とかすかな緊張を感じながら、ユキノはこくんとうなずいた。
「それでトウガに殺されるのなら本望だわ」
トウガが目元を緩めて笑顔を見せるので、ユキノもほっとしながら笑顔を返そうとして、はたと首を傾げた。
……あれ? ちょっと待って。
「あのう、トウガ? 一つ聞き忘れてたことがあるんだけど」
「何だ?」と、トウガは
「わたし、風の民のために大王になりたいのは間違いないんだけど、本当になりたいのはあなたの妻であって……。トウガの気持ちって、まだ聞いてなかったわよね?」
「お前、ここまで話して、それを今さら聞くのか!?」
トウガはぎょっと目を見開いた後、まいったというように片手で両目を覆った。その頬がうっすらと赤くなっているように見える。
この十年、トウガの表情を見ることなく話をしていたので、そんな変化が見られるのが新鮮だった。
「どうなの?」
ユキノがトウガの顔を覗き込むと、そのままぎゅうっとその胸に抱きしめられていた。
「このバカ。それくらい言わなくても気づけ。こんなド田舎に呼び出されて、毎回来てやってるんだぞ」
耳元でささやかれる言葉にユキノは顔が真っ赤になるのを感じながら、トウガをそっと見上げた。
「それって――」
「お前に会いたいからに決まってるだろうが。呼ばれるのをいつも待ってた。会うたびにこうしたいと思ってた――」
語尾が耳に届く前に、トウガの唇がユキノのものに重なっていた。
なんだ、もう……。わたしの片思いじゃなかったんじゃないの。
表情どころか姿さえ見ることができなかったせいで、ずいぶん遠回りしたように思う。
ユキノの決断に合わせて、トウガが風の民の未来を決めていたというのも、なんだかずるいと思ってしまう。
それでも今、こうして直に触れることのできるトウガの温もりは、どこまでも愛しい。
今日まで長かったわね。
これから進む道に迷いなど微塵もない。この温もりを手放さずにすむ道を一緒に歩んでいくだけだ。
〈第1部完〉
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最後までお読みいただき、ありがとうございました!
陰謀うずまく大王位の継承争い、ユキノが大王になるまでの波乱の予感を残しつつ――
『「世界を変える運命の恋」中編コンテスト』応募作ということで、ここで一旦完結(第1部)にさせていただきます。
続きを投稿する時は、近況ノートまたはX(旧ツイッター)@ao_kojiyaにて、お知らせいたします。
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よろしくお願いいたします。<m(__)m>
辺境の貧乏小国の姫は、自分の恋のために権力を欲する。 糀野アオ @ao_kojiya
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