第225話 見解
鏡花帝釈は、自分の手を見つめていた。
久しぶりに味わう高揚感は、自身の根っこの部分で戦いを求めていた事を知る。
妻を殺され、ヤクザに報復した男。
世間では、自身の家族も彼が殺めた事になっていたのは、政治的な事件が絡んでいたが、彼にそれを知る由もないはなく、歳が行って産まれた子供とも引き離された。
特に親として感情はなく、気にしもしていない。
ただ、愛する人が子を欲しがった、それだけだったからだ。
この世界でやりたい事もない、いつ死んでも構わないが、戦いだけは彼の心を満たした。
「次の相手は、修羅か」
獲物を前にし、鏡花は不敵な笑みを浮かべ、控え室を出てリングへと向かう。
リングには、天外が先に入場している。
右手はバンテージがまかれ、傷がある事は外目にはわからない。
「注目の一戦ですね」
医務室のテレビで、試合を見つめるのは、千菊丸であった。
千切れた耳は縫合され、右目は眼帯がつけられている、失明の危険性はないのが幸いだが、直ぐにでも病院に行く必要があるのだが、本人の希望で医務室に待機していた。
側には守るべき、内閣総理大臣の伊藤がいた。
「お前ならもっといけると思ったんだが、相手が悪かったか」
伊藤の言葉に、千菊丸は首を振る。
「いえ、処置している時の試合は見ていませんが、何人かの試合は観ています、今勝ち残っている顔ぶれを観ると、俺が勝ち進む可能性は低かったと感じます、それだけの大会です」
「そうか、お前が言うんならそうかもな」
千菊丸の言葉に、伊藤もモニターを観る、リングにはすでに帝釈と天外が向かいあっている。
帝釈は、天外が右手を負傷している事に直ぐに気づいた。
血の匂い、筋肉の緊張、そして、僅かに感じるセコンドの空気感、相手の弱い部分に対する嗅覚は、生き残る為に重要なセンスの一つ、帝釈は、それに秀でていた。
(試合外での戦いは禁止されているはずだが、何かあったな)
帝釈は、身体の筋肉を抜きだらり、漂うように重心を変えていく。
(この試合は、秒殺で終わらせる)
バベル 〜最強の闘士たち〜 @nagaresasa
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