第224話 ウィークポイントとストロングポイント

 ちからをこめろ


 阿修羅には、相手が組み潰すに対する反撃手を持っていた。

 多くの場合、小柄な阿修羅に対して、その策をとる筈のなので、そこを利用しようと考えていた。


 修羅の技、落葉(らくよう)


 押しつぶす、扇がそう思ったタイミングで、スマホのスピーカーの声がそれを止める。


 「戦いを止めて、扇」


 天外は、一伍の声に少し動揺する。


 「一伍か、なぜお前が」


 「今、修羅と事を構えるのは良くない、あの時とは状況が変わったの」


 「俺の任務は、『バベルトーナメントで勝ち進む事』と『修羅を潰す事』、それは変わらない」


 一伍は一瞬この場で伝えるかどうか、迷ったが言葉を続けた。


 「父が意識不明になって、そして、私達兄弟の中でに不審な動きをしている者も出てきてるの」


 扇は聞く耳を持たない。

 「俺には関係ない」


 「その中でもモード、ヘラクレス、マダムがは、日本に来ていてる情報があるの、多分狙いは」


 「俺達だろう、候補者の頭数を減らす、任務失敗の責を取る形であれば辻褄を無理やり出来ない、事もない、『父に言われた』とか何とか言ってな」


 なら何故、

 「分かってるなら止めて、今怪我でもしたら、自分の身が守れなくなる、トーナメントの進行に影響が出れば今度は、前田も狙う筋が出来てしまうの」



 「父がもし危篤なら、最後に言われた命令だけは、完遂させる」


 「それでいいの」


 「よくわからないけど、ほんとにたたかうあいては、わたしたちじゃなくて、その勝手やってる人たちじゃないの」


 「うるさい、お前がとやかく言う権利はない」


 扇の目には光るものが見え、そして、感情的に力任せに阿修羅を組み崩しにかかる。


 「このわからずやーー」


 阿修羅は、押し倒されるように、身体が宙に浮く、しかし、それはあえて阿修羅が飛びついたからだ。


 扇の左腕を逆上がりの要領で回転し、そのまま空中で両足を使い、左腕を固定。

 左腕で扇の頭を捉える。


 体勢が崩れ、それに阿修羅の体重も掛かり、扇は、そのまま地面に叩き受けられる。


 落葉。


 まるで、木の葉のように阿修羅は舞い、扇に絡みついての叩きつけ、柔らかいリングなら決定打にはならないが固いコンクリートなら、勝負ありだ。


 扇は、左腕を外され、軽い脳震盪におちいった。


 もし、扇が冷静に戦っていたら、時間的に制限がなかったら、得意の戦い方が出来ていたなら、結果は分からなかった。


 ただ今回は、阿修羅に軍配が上がった。


 倒れうなる扇を阿修羅は見つめる。


 追撃はしない、ただ落とし所を上手く見つけられないでいた。


 「お父様、これから」


 言葉をかける為、視線を外した瞬間、僅かの隙で扇はナイフに隠されていたギミックを使う。


 扇の使っていたナイフは、スペツナズナイフ、刀身を弾丸のように阿修羅の足元に飛ばす。


 阿修羅は、上げて回避、しかし、扇の目的は他にあった、阿修羅の動きを一瞬止めること。


 扇は、もう一本のナイフを天高く上げ、覚悟を決める。


 (我が父よ、私は先に逝きます、出来の悪い子ですが、あの世でも私を息子と呼んで下さい)


 そのナイフを扇は自分の首元に突きつける。


 部屋に血が飛びかうが、それは、扇の血ではない、扇の動きを察知して天外を間に入ったのだ。


 天外の右手をナイフが貫通していたが、扇の首元には傷一つついていなかった。


 「何も死ぬ事はない」



 天外は、そう言いながら、ナイフを奪う。


 「お父様、医務室へ」

 阿修羅が駆け寄る。


 「大丈夫だ、それよりこれでお前の任務はこなす事になったな」


 「どういう事だ」


 「俺の利き腕を使えなくしたんだ、『阿修羅を潰した』そして、試合の運営にも影響を与えない」


 「これで、その輩達もお前も、前田とかいう奴も狙われる理由はないだろ」


 手を傷つけなくても、止めることは出来たが、天外にはこれが落とし所としては一番よいと考えた。



 天外は傷を処置しながら扇に話をし、扇は困惑していた。


 「わからない、なぜだ、お前達の命を狙った相手に情けをかける」


 「親より先に子供が死ぬのを見たくないだけだ、それに、これぐらいハンデがあっても問題ない」


 スピーカー越しに一伍は天外に礼をいい、また、後から連絡する旨を伝えてから通話を終える。


 「さてと、そろそろ、俺の出番かな」


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