4月1日

想田翠/140字小説・短編小説

4月1日/お題「嘘であってほしい」

 4月1日、毎年恒例のニヤニヤ顔で近づいてくる、精神年齢の成長が止まった幼馴染。

「ついに花粉症根絶ワクチンが開発されたらしいぞ!」

去年の嘘は束の間信じてしまった。

花粉症の私は、鼻水を啜りながら今年も相手をしてあげる。


「花粉症って、アレルゲンを敵とみなして作られる抗体が体内に蓄積されて、限界寸前まで達したタイミングで花粉シーズンが到来すると発症するんだよね」

「急にどうした?」

「とうとうあんたも花粉症デビューしたかと思って。目が赤いから」

「いや、これは……違うんだ……」

 ニヤニヤが消えて真顔になった。


 私達の幼馴染ポイントも蓄積されて、あるレベルに達したら爆発するんじゃないかと思っていた。

思春期を迎えた辺りで「幼馴染からの恋愛フラグ」は何度か立っていて、でも微妙にタイミングを逃してきた。

中学二年生のバレンタインデー、あの日に告白してくれてもよかったのに。

 私が親友に頼まれて代わりにチョコを渡した時「よりによって、お前がその役目を引き受けるなよ」って言ったのは、つまり私に恋愛感情があったってことだよね?

言葉にして確かめればよかったと何度も後悔した。でも、まだチャンスはいくらでもあると信じていた。

二人ともイケメン・美少女とは言い難い三枚目キャラだけど、王道ラブコメの主人公に自分を当てはめてみたりして。


 いつもふざけてばかりだったけど、わりとやる時はやる有言実行タイプ。

「誰かにいじめられたら俺に言えよ。俺がやっつけてやるから」も本当だったし。

だから、「30歳過ぎてお互い相手がいなかったら、俺が嫁にもらってやるよ」もいつか実行されるんだと……。


「俺、結婚するんだ」

「えっ!?」

「実はできちゃって……」

「その手の嘘は笑えないよ」

 私の言葉に無言で首を振る。


 嘘でしょ? 「お前とは無人島に行っても何も起きないな」も何かのきっかけで、例えばお酒の力を借りて……覆せると思っていた。

なのに、まだ飲酒も禁止されている年齢で父親になるって。


「成人にもなってないじゃん、親になれるの?」

「成人は18歳からだぞ」

 またニヤニヤ顔に戻った。そうだ、こいつは真剣な話をする時もニヤついてしまって、部活の顧問の先生に怒られていたっけ。

私はちっとも笑えない。


 なんで「俺は子どもを持たない人生かもな」は有言不実行なんだよ。

 今年ほど、4月1日のあんたの発言が嘘であってほしいと思ったことはなかった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

4月1日 想田翠/140字小説・短編小説 @shitatamerusoda

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ