優生学の呪い

恐れながら、拝読致しました。
作者様は、色んな実験的な作品を書かれていますが、この作品もなかなか挑戦的だと思いました。
私は試験管ベビー当事者ですので、どうしても当事者目線で読んでしまいました。試験管ベビーだって人間だ!と常日頃思っている私には万年タイムリーな作品で、運命を感じております。
作者様の意図に反していると思います。最初に宣言させてください。エンターテインメントとして拝読できず、申し訳ございません。
この小説は、試験管ベビー問題の本質をついていると思います。

このレビューはイチ読者として作者様に届けることのできるラブレターだと思っております。こんな中年からのラブレターなんて気持ち悪いと思いますが、ご確認ください。作者様が必要と感じられたら、どうぞこのレビューを消してくださいませ。

デスゲームというのは初めて読みました。読んでいる間、ずっとハラハラドキドキしておりました。難しい話で、頭脳戦というのもなかなか難解でしたが、登場人物たちが青年や少女ということもあり、そのイマドキな会話を楽しみました。
白石がかなり気に入りました。いい奴だったのになぁ。
翠ちゃんは芯があってカッコいい女の子ですね!

翠ちゃんが自分の正体を明かす場面があるのですが、そこから何だか自分的に物語に光が差してきたきたように思います。
私は常日頃、自分は人に作られた人だけど、生身の人間だ!と心の中で叫んでおりますが、最後の方の翠ちゃんの言葉は人間の尊厳の本質をついていると思います。
ただし、悪者は自分の親だけなのか?という疑問があります。
もうすでにこの作品を見られた方にもいらっしゃると思いますが、試験管ベビーという産まれ方をした方はこの世の中に沢山いらっしゃいます(変な表現ですみません)。
それが常識になろうとしているのは、少し怖いと思ってしまう自分です。
「なぜ血が繋がっていなければならなかったの?」
「もっと違う出会い方があったんじゃないの?」
私のその問いはもうその時点で、自分の存在を自分自身で認めていないものかもしれませんが、両親に何度か問いただしてしまいました。
色んな答えを聞きましたが、どれも納得がいくものではありませんでした。
親不孝者と思いつつも、私は両親に望まれて産まれながら、世界に拒絶されていると感じます。神様の予定外の人間だと思っています。
恋をするのは、遺伝子に仕組まれたものなのか?
遺伝子に操作されて伴侶を選んでいるのか?
物語の最後で考えさせられます。

本当に優秀で完璧な人間など、この世界に存在するのでしょうか?
この物語に登場する人物の誰もが、人に作られながら、感情も恋も劣情も様々ある人間でした。
「お前は子供の役目を果たすために産まれたんだ」という私の父からの言葉では、私は「じゃあなんでこんなポンコツに産んだんだ」と応戦してしまったことを思い出します。

時代が、なんでもアリになってきていますね。
これまでの倫理観や道徳観など、覆されるようなことに日々出会います。
前時代的な考えになっていくのかもしれませんが、
人間に利用されるために生まれる人間、という者がいるというのは非常に悲しいものではないでしょうか。
善悪の概念も、時代で移り変わります。
誰も、これこそが永遠!という正義を知らないのです。

私たちが負の遺産として、人間の予定通りの人間になる技術を未来に残してしまうかもしれないのはとても怖いと思っています。

この作品は、とても心動かされる作品です。
私個人の感想ですが、問題提起作としてご一読されることをお勧めします。
問題提起を主題にされていなかったら申し訳ないです。
私は常日頃どこに行っても空気が読めないのでご容赦ください。
作者様、素晴らしい作品をありがとうございました!

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