最終話\タとトを合わせる…。

―【旧花山火葬場の駐車場】


~モクモク~

~モクモク~

~モクモク~~


『煩悩を無くせば、自然と分かるはず……、か――』

「外でもない……、外……、では無いから――。 内側……っ」

「でも、世界は――、一緒で……。 内側にあるものが大事だと…」

「そんな事……、誰かが言っていたっけ――? 誰だ……」

「何だ、このモヤモヤした気持ちは……」

「僕のモヤモヤも、この煙突から出る煙り見たいに……」

「出てくれないかな――」


――ヒラヒラ、ハラハラ――

――ヒラヒラ、ハラハラ――


「あっ! 何だろアレは……」

「蝶々みたいな、トンボ――」

「?」

「蝶ちょ――かな?」

「でも…、トンボの様な蝶々にも見えるな――」「こんな所に珍しい……」

「蝶トンボ」

「こう、物想いにふけると自然と煩悩が無くなっていく……」

「何だろ――。 内側から抜けていく…、あ――」

「空っぽ――」

「!」

「解った――」

「ひとへに、この煙突から出る煙は、その塵と同じ……」

「僕らは、まるで蝶とんぼ……。 蝶にも見えるし、トンボにも成れる……」

『その理とは?』※アンナ

「……、最後に言うよ――」


――ヒラヒラ、ハラハラ――

――ヒラヒラ、ハラハラ――


『やっぱり…、昔の人は、スゴいね…』

「ん?」

『何で』

「端から、『そなたには、この瓢箪鮎図どう見える?』って、言っていたのかな――」

『その心は? なんてね……』

「どうだろう――」




―【応永二十二年 妙心寺塔頭】―




『じゃ――、次――っ』

「うっほん――っ、どうして? また、瓢箪で鯰を押さえようとするのか――」

「私には、鯰がこちらを意識ぜず広々とした川で佇んでいる様にも見える」

『ほ――っ、その心は?』

「ですので……、人もまた…、無限の道の中に浸っていると考えます――」

――うぉぉっ――、さすが雲林妙沖殿――


『ふむふむ――、では、次の者――』

「え――っ、瓢箪は、コロコロしていて――、鯰は、首(命)も短く腹は、太い!」

『その心は?』

「私なら――、鯰が、竹に飛びはねるまで…、待とうとしよう――」

――ほ――っ、これまた、深いな――

――あれは、鄂隠殿じゃ――


『良いでは、ないか――』『次の者……』


――ニャム―ニャム――

「ワシは…、この図は、一見すると瓢箪で鯰を押さえようとも見えるが……」

「ワシには、鯰が瓢箪を押さえようと見えるんじゃ――」

「?」「何?」「えっ!」「……」「――」

――ざわざわ――

――ざわざわ、ざわざわ――


『ほ――、続けて――』

「で……、世の中とは、この『様(さま)』を指す……」


―ニャム―


『その心は……?』

「どらにしてもじゃ――、その男も瓢箪も鯰も……、一緒の世界(図)におる――」


――ざわざわ――

――ざわざわ、ざわざわ――


「誰?」「何者――」「誰々!」「……」

『ほ――っ、世界と申すか――』

「掴みどころの無い人が、ツルツルした瓢箪でヌルヌルした、鯰を捕まえ様とする――」

「この無常の世界で……」

「一切、変化したり生じたりしては、ならぬ――」

「無理して捕まえ様とすると……、いつか雷鳴を轟かして――」

「その魚は、龍になるのじゃ……」

「この絵は、正に…、煩悩魚図――」


――ニャム―ニャム――


――ざわざわ――

――ざわざわ、ざわざわ――

――ざわざわ――

――ざわざわ、ざわざわ――


『ま――、これも…、一つの賛(漢詩)としよう――』

『そなたの名は?』

「ワシの名は、ただの牛使い高貴な僧侶初代牛王」

『では、牛王様とやら? その理とは、何ぞや?』

「……」

「最後に言うとしようかね…」





―【ある竹藪の中】



――バキッバキッ

――バキッ――バキっ

――バキッ――バキッバキッ――

『おっ!』

『こんな所にも沙羅双樹の木が映えているじゃないか――』

『えっ!』

『でもちょっと違うな――、花びらが白色だ』

――ニャム――

『寒いこんな日本に…、ある竹藪の中で……』

『花びらの色は、違えども…』

『いや、違うかの――。 モノは違えども――』

『ヒトは、いつかこの樹を沙羅双樹と呼ぶだろうな――』


『嗚呼――、こんな高貴な僧侶にでさえ…も……」

『一つ、煩悩(コト)が出来てしまった…』

『は――っ、何て――』


――ハラリ―ヒラリ――

――ハラリ―ヒラリ――


『……?』

『煩悩も、この白い花びらたちが…』

『土に堕ちて行く度に…、叉、違う蕾が浮かんで煩悩となる――』

『嗚呼――。 何て、はかないのだ――』


最後に、モレとアテルイの靈がどこへ行ったかの話であるが、彷徨う事なく、漸くここで点と点が出合う。何故なら、この前のセリフの一文『嗚呼――。何て』の「て」に濁点「゛」を打つことによって、二人は叉、結び会う。そこに見えて来たのは何だろうか? 皆さんも一緒に考えて欲しい――。 全ての煩悩を捨てて…、そこには、違う世界が待っている。



――ゴ――ンっ――ゴ――ン――

――ゴ――ンっ――ゴ――ン――

――ゴ――っ――ゴ――ンっ――


『最後に聞くが…、その理とは…』


「世界よ――、我らに…、平らであれ」※初代牛王


『平らになれ――』※ 杏南と坎人


『それで、ボクらの右目の痒みが「ト」。』






【完】




~ 煩悩魚ズ・アナザ・ス『ト』ーリー~




―【明智藪近くのポツンと一軒家】



――ニャム――ニャム――

『それでは――、今回の説法は、皆の疑問に答えていくとしょうかの――』

「は――いっ」「は――いっ」「はい!」

「牛王先生!」「昔の人は、死んだらどうなっていたんですか?」

『うむうむっ…』『何と言う質問じゃ――』

「……」「――」「――」

『うむ…、平安時代では、人が亡くなると遺体を野ざらしにして見送くる――』

「え――っ」「……」「だからか――」

『そして、鳥たちがそれを摘まんで――、そのまま朽ちるまで風に任せているのじゃ――』

『風が何とかしてくれた――』

『一つは東山鳥べ野…、もう一つはあだし野…』

『他にも京都に野が付く地名は、その風葬の地じゃ…』

『そして、鳥べ野を境に南をあの世…、北をこの世と呼んでいた――』


「……」「――」 「何で、墓ないんだろ――」


『都の端っこじゃった東山鳥べ野は…、西に行けばいく程、西の彼方に――』

『極楽の地があると云われていたんじゃの――』『西の方角にじゃ……』

「へ――っ」「……」「だから…、そこに違う世界が待っているのか――」

―ニャム――

『では…、明日は、七月五日の吉符入(きっぷいり)じゃ――』

「はい!」「は――い」「はい!!」

『稚児の紀乃人君は、「蝶とんぼの冠」を頭に頂いて――』

『教えた…、「太平の舞い」を踊るのじゃ――』『わかったな――』

「はい!!」

『世界が…、平和になります様にと…、舞うのじゃ』

「はい!」「出して来ます。『僕の全て』を…」




―【午前九時】―



先頭の長刀鉾から全ての山鉾が、順番に四条烏丸を出発して行く――。


稚児と禿たちが乗る長刀鉾は、くじ改めを行わないからそのまま通過――。勿論、祭りのハイライトは稚児による「しめ縄切り」。その前には、神域に入る道が目の前に見えてくる。

四条麩屋町にさしかかった時に、通りを横切って張られた、しめ縄を稚児が刀で切り払ってくれた。今年の疫霊たちに祭神にお渡しする御霊会(ごりょうえ)本来の儀式を誠実に行ってくれるのだ。そして、今年もまた、稚児が舞い、神社を遥拝して儀式は終了となる。その後、稚児と禿たちは、八坂神社へと向かい、八坂神社にて位を返す『お位返しの儀』が行われ、過去から現世にタイムスリップしたかの様に稚児と禿たちは、未來がある普通の少年たちに戻って来てくれる。



『終』



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【仮】戦え!!ボクらの煩悩wars ~風葬の地、京都編~ ヨシムら マヒと @yoshimura_mahito

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