第12話\ぬるぬるでつるつるの謎…。


―【六地蔵病院6F病棟】


「卜部さん――、誰かお見舞いにこられていますよ――」

『これは、これは……』

「ご無沙汰しております――」「雲龍の件は、有り難うございました」

『いえいえ――、こちらこそ――』

「息子は、どうでしたか…?」

『いゃ――、今回の件で……。 六根の力が前よりもましての――』『異様に感じましたよ』

「そうですか……」「もう、占いと切り離せそうですか?」

『何とか……、思い込みによる力で、そうなったと伝えたのじゃが――』『最後は…』

「私の役目ですね……」「何とか平凡な人生を、歩んで行くように言います――」

『その方が……、良さそうじゃな――。 お母さんの舌根の力でお願い致します――』

「畏まりました――。 牛王様……、何故、あの子にあの橦木が渡ったのですか?」

『それは…、奇跡と云うしかないじゃろ――』




――ブルブルブル――

――ブルブルブル――


『ワシは、此にて――』

――トボトボ、トボトボトボ――


「もしもし?」

『はい!』『坎人……?』

「うん…。 お母さん……、元気?」

『元気よ――。 私は……』『後は、逝くのを待っています――』

「そんな事…、言わないでよ――」

『フフフっ』

「僕は、何者なの?」

『――』『坎人は、どうなの?』

「元気では、ない……。 お母さん? 思い込みって分かる?」「思い込みって……」

『思い込む事でしょう? 何か出来るって――』

「そんな感じの事なんだけど――、お母さんは、奇跡とか信じるタイプ?」

『いや…、信じないかも――。 占いと逆で、目に見えるモノにしか信じないかな?』

「目に見えるモノか――」「じゃ――、信じないだろうな…、この話は……」

『何かあったの?』

「琵琶湖のニュース見た?」

『見たわよ――。 スゴかったね』

「あれは……、僕が、妙心寺の小槌を使って…、黄鐘調の鐘を鳴らしたんだ――」

「ただ…、鳴らしただけだったんだ……」「ただ…、それだけを伝えたくて――」

『うん――。 頑張ったね…、坎人――』

「うっうっ、う――っ、うん……」

『坎人の人生には、私の期待で胸が一杯よ――』


―カリカリ――


「有り難う――っ、お母さんっ――っ」「最後に…、もう一ついいかな?」

『いいわょ…、坎人――』

「奇跡って信じる? 奇跡って――」

『勿論、信じてる――。 あなたが経験したのは…、霊験(れいげん)かもよ――』

「レイゲン? 何それ……」

『奇跡とは、常識じゃ考えなれない出来事で、霊験は、その恵みよ――』

『だから…、坎人には、御利益があったのね――』

「そっか――」「良かったのか、悪かったのか……」

『坎人は、何か…、瓢箪鮎みたいだね――。 何かこう……』

「えっ! どういう意味…、お母さん――」

『また…、妙心寺に行けば、分かるわよ――。 じゃね――』


――ツ――っ、ツ――、ツ――っ――


「あ――っ、気になるな――」「気になる……」「俺の」

「どこが…、瓢箪鮎何だろう――」


――テクテクテク、テクテクテク――


「ここか――」



―【妙心寺退蔵院】




「何だこの図は…? 瓢鮎図(ひょうねんず)と描かれているが……」

「でも…、どうして……。 ナマズじゃ無くて鮎なんだ――」

「竹と水辺に鮎が一匹…。 そして、何とも言えないおっちゃんが両手で……」

「瓢箪を押さえて、鮎を取ろうとしているのか――」「無理だろ」

「どう考えても…、ヌルヌルした鮎をツルツルした瓢箪で捕まえるか――」

「だいぶ『とんち』がきいているな――」「母親は、僕がこのおっちゃんと言いたいのか?」「それとも…、その様を言うているのか……」「また、謎々問題だよ――」

「ここに来て……」

「結局、ヌルヌルでツルツルだと…最初から取れないし――」

「何故、このおっちゃんは……」「何てこんなにも…、みすぼらしい描き方を」

「しているのだろう――」「出来ない人を…、出来ない道具で…、捕らえられない獲物を…」

「少し、歩きながら考えよう――」



――テクテク―テクテクテク――



「お母さんの占いで、ホントに僕が、あの瓢鮎図のおじさんだったら――」

「ヤバイな――」

「……」

「あっ! ナマズの瓦だ!」「こっちは、狛犬に…、桃?」

「どうなっているんだ――。 この寺は……、まさか――」

「みな―、北東を見ている!」「……っと言うか――、睨んでいる――」

「何か…、厄除けに近いな――」

「あっ――」

「瓢箪の瓦!」

「……とっ、ナマズ!!」「こっちは、ひょうたんとナマズになっている――」

「さて…、ここで問題です――」「か……」

「――――」

「止めてくれよ……」

「え――っと…、どちらも捕まえヅラいな――」

「ハハハハっ」

「あ――あっ。 僕の事は、掴みヅラいのか――」

「何か……、スッキリしたけど…、この何だ――モヤモヤしたのは…」

――ブルブルブル――

――ブルブルブル――


「はい!」「もしもし……」

「――、はいっ! えっ!」「はいっ! 分かりました……。 そちらへ向かいます――」


シキが亡くなった――。その電話の後は、僕とお母さんで看取った後は、ちゃんと卜部家の墓に入れて上げた。



―【旧花山火葬場】




『…………』

「――――」


―カリカリ――

―カリカリ――


『これからどうするの――、坎人?』

「えっ! 今は、何も考えられないよ――」「でも……」

『――』

「何か――、もっと世の中を良くしたいな――」「こんな僕でも……」

「世界中を回って、世界の梵鐘を鳴らす」「撞木は、無くなったけど…」

『素敵な事ね……』『これ…っ』

『私の沙羅の木で出来た、「ト術」の本を坎人にあげるわ――』

「有り難う…、いいの――」

『何か…、やりたい残した事があるんでしょ――?』

「母さん…、分かるの?」

『うん!』『私が、今のあなたを…』

『絵に描くとしたら……、掴みどころの無い男が、沙羅の木の本で……』

『山椒魚を捕まえる図ね!』

「ハハハハっ――、ハハハハっ――」「沙羅の木の本で、山椒魚を捕まえられない――」

「ってか…、何で山椒魚の事を知ってんの?」「!」

『私は、占い師よ……、ト術に、優れた者……』

「――」「その図は…」

『掴みどころの無い者【ヒト】が、ツルツルの沙羅木の本【モノ】を使って――』

『ヌルヌルした山椒魚を捕まえ様としている【コト】――』

「退蔵院の瓢鮎図、見たいに例えないでくれるかな……」

『ホントね――』

「僕と違って、例えるの上手だね――。 お母さんは……」

『フフっ』

「その答えは、何だろ――」

『坎人に教えてあげる……』

「何?」

『その答えは……、単純! 単純!!」

『外(ほか)でもないよ……』

「えっ?」「どういう意味?」

『煩悩を無くせば、自然と分かるはず……』

「……」


「そもそも……、瓢鮎図って――。 室町幕府のあの四代目足利義持が……」

「京都五山の高僧名僧を集めて、そのテーマに禅問答させた――」

『良く知っているね――』

「僕も、セムったからね――」

『何? セムるって……』

「いやいゃ……、何もない――」「あんなに、水墨画が綺麗なのに……」

「あの、みすぼらしい男と瓢箪と鯰が何とも言えない緊張感を与えているんだよな……」

『そうかもね――』

「上に書いてある漢詩にヒントがあんのかも――」

『じゃ――ね。 坎人…、バイバイ』

「うん……」


――テクテク――

――テクテク――




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