第11話\蹴上インクラインの謎…。
琵琶湖疏水では、京都と滋賀県大津と行き交う船がそのままでは、船が運行できない区間があったと云う。一般に運河の落差がある船を通行させるには、勾配のある水路にレールを敷き、その上を走る台車に船を載せ、ケーブルカーのようにケーブルで引っ張り上下させるもので、蹴上インクラインは台車に直接船を載せるインクライン方式を採用していたからそう呼ばれていた。
「お前も、在るべき所に帰りな――」「その方が、自分らしいだろ?」
「僕が、在るべき所とは……、僕の自分らしさって――何だよ」
「嗚呼――、胸が痛て――」
―ちゃぼんっ――
んっ――
――バシャ――っ
――バシャ――っ―
―ゴロゴロゴロゴゴゴゴゴっ――
「ん? 何の頭――、アレ……、游いで行く――」
「……」
「頭は、龍……」「何とか琵琶湖まで行ってくれよ――」
「身(体)は、鐘(金)で覆われているって……」
「鐘身、そのものだな……」
「……」
「何て、綺麗な龍なんだ――」「頼むから琵琶湖まで行ってくれ……」
「龍頭の山椒魚……」
「戦え――っ! 僕らの煩悩たちよ――」
「煩悩――」
「ウォぉぉぉ――」
「,S」
程なくして、琵琶湖の水位も下がり出した。そして、僕は、何とか京都を救うことが出来た。ここで謎なのが蹴上インクラインと琵琶湖は、ホントは繋がっていない。それは、船を引き上げる、もしくは、引き下げる為のモノであるからだ――。
―【花園町 妙心寺の塔頭】
「妙心寺ってホントに広いな――」
―テクテクテク――
「あれっ……、路に迷ったかな?』
「この辺りは、 木が何本も植えられているけど……、何かの林みたいだが―」
「嗚呼――、綺麗なつぼみと花が咲いている」
『おう――、これはこれは――』
「おおちゃん…」
「この前は、大変お世話になりました。 ちょっと、道に迷いまして――」
「これ……、一輪車と、この寺の撞木を返しにきました――」
「後……、聞きたい事が沢山有りすぎて――」
――ちょいちょい――
『こっちじゃ――』『雲龍図を見なされ――』
「!」「雲龍が戻って来ている――!」
『ただ、春の夜の夢のごとし……』
「僕は、夢を見ていたのですか――」
『一重に風の前の塵に同じ、じゃな……?』
「あれは、夢じゃない――、僕は、ちゃんと見た――」「王ちゃん……」
『ここは、妙心寺沙羅双樹の寺「東林院」――』『さっき出会った所じゃ』
「はい……」
『あれは、沙羅双樹の花と言って朝咲いては、夕方には散(塵)りよる』『一日花じゃ…』
「そうなんですか……」
『そうじゃ』『日本のあらゆる寺院に、植えてあるのは、実は、本種では無く――」
『夏椿と云うもんじゃ――、花は、淡い黄色の花が咲く』
「は――」
『そして、本当の沙羅双樹の木は日本では、ほとんどありゃせん――』
「ホントですか?」
『左様にも右様にも――、そして、幹がツルツルして…、猿滑りしよる――』
「では、何故あの木は、沙羅双樹と呼ぶようになったのですか――」
『それは…』
『お釈迦様が最後を迎える時に、二本(双)の沙羅の木があったと云う――』
『そして、その双樹は、淡い色を咲かせてお釈迦様へと舞い散り、覆いつくした』
「へ――っ」「それだとしても……。 夏椿との関係性は?」
『そうじゃの――。 昔、ある僧侶が仏教にゆかりのある日本にも沙羅双樹の』
『木があると思い込んで、ある竹やぶに入った……。そして――』
『夏椿を見て、その木を「沙羅双樹」だと広めたのじゃ……』
『ある種の「思い込み」によるものじゃ――』
「思い込みでそうなったのですか――」
『琵琶湖の件も、あの山椒魚でも無いかも知れんの』『うぬも思い出してご覧なさい…』
「!」「ちょっと待ってょ――」
――ゴソゴソ――ゴソゴソ――
「いゃ! そんな事はない――」
『――、僕は、見たんだ! 龍頭の山椒魚が…』
「あれ?」
「本も赤い楓の撞木も無い――」
――ゴソゴソ――
「無い! 無いよ――。 アレ……、どこ行った?」
『橦木の方、どうなさった?』
「えっ!」
『橦木とは、鐘を鳴らす仏具の一つに過ぎん……、鐘を鳴らさないのじゃ必要あるまい』
『ワシは、あなたにその橦木は、本物じゃないと申したじゃろ――』
「はい……。 確かに――」
『思い込みでは? ないのでは……?』
「そっ…、そんな事は、ありません――」
『いつから、何があったのじゃ?』
「あ……っ…。 はい――」「まずは、小学一年生の時に両親が離婚して――」
『ふむ――』
「その時に、ある本を一つ選びました――。 それが『ト術~』って本です……」
『ト術って…、あの占いの本かいな――、昔の……』
「はい! それで…、直後に別れた父親に子供全員、ある車にのせられました――」
『ほ――っ』
「そうしたら、行きの道中で『UFO』って言われちゃいまして……」
『それは……』
「……」
『思い込みには、二つの意味がある…。 一つ目は、深く信じて疑わない事……』
『二つ目は、何かを固く決心した事じゃ――。 そうなると…それは』
「はい――っ」
『一つ目の深く信じて、疑わなかったのでは?』
「はい。 でも……」
『あなたは、自分を「とっ進」するタイプだと思うかね――』
「はい……。 そうだと思いますが――」
『では……、笑ったその人たちに何故、笑ったのか聞いたかい?』
「いえ……。 何にも――」
『そうじゃろ――。 勝手に思い込んで…、事実とは、違うことを信じた――』
「……」
『他にも、勘違いってモノもある――。 何かを間違って思い込む事じゃ――』
「……」「……」
『物事を直感的に判断しておらんか? ある種の「勘」じゃの――』
「あの――、UFOの件は、置いといて…、同い年の中村さんに貸した本の中に――」
「栗の木で出来た…、橦木が入っていました――」
『その――、中村さんって子が入れたのか……。 もしくは、第三者が入れたのか……』
『ワシには、分からぬ――』『お主は、自分を何かのミステリアスな主人公に……』
『しておらぬか?』『主人公に……』
「?」
『ミステリアスな主人公――』『ミステリあな……』『下の名前は…?』
「アナトです……」
『そう! ミステリアナト』『こんな風に……』
「ミステリアナト!?」「いゃ――、何だか分からなくなってきた……」
『人は、「思い込み」が身体や実力に影響を及ぼし、ある力を発揮出来る――』
『分かりやすく云えば、ある薬が効果も無いのに、ニセ薬を服用して――』
『病気の症状が改善してしまう奴じゃ――』
「いいゃ――。 そんな事は、無いです」
『第三者に注目される事で、そなたの意思決定に変化が生じて――』
『良い結果が生まれてしまう――。 そんな事は、無かったかいの――』
「でっ…、でも……。 僕は、姉の蓮歌と天満宮に雀の様に飛び立って……」
「あの鐘を鳴らしたんだ――」「誰かに届くように…」
『単に、第三者からの期待や注目が、そなたの…、原動力になっただけでは?』
「第三者……? でも、特に母親からの期待は、大きくありました……」
「僕が、卜部家を継がなくなったから――」「思い込みで、あんな奇跡が起こるのか……」
「すべては、思い込みによるモノ……」「……」
『そうじゃと、思うがね――』
「この世に、奇跡は無いんだ……。 分かったよ……。 帰ります――」
『うむ……、この世に奇跡などありゃせん』
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