ももきね旅の草枕
加須 千花
ええい、山を突いて小さくしてしまいたい!
ありと聞きて 我が行く道の
人は
ももきね
くくりの
美しい
人に
こんな風に寄れと人は突くけど、心ない山の、
万葉集 作者未詳
─────上記の文で納得ができない方のみ、目を通して下さい。(疲れるから読み飛ばして良いんですわ。)────
・
・
・
・行靡闕矣──難読で岩波文庫様も答えを教えてくれない。
「行こう、美しいくくりの宮の門
と解釈する。
────(お疲れ様でした。)────
奈良時代。
春。
快晴。
ぽかぽか陽気に誘われて、前を歩く
「
ぽたり、ぽたり、
「へはぁ、ひはぁ、待って、
この険しい山道がいけない。
「お? これぐらいでヘバるなよ、
ひょろっと背が高く、
「がっはっは!」
と笑った。
「お前、屋敷から出て、薬売りの仕事をするの、初めてだもんなあ。歩くのが基本だぜ。遠くの人に、必要な薬を届けてこその薬売りだ。」
「今からでも屋敷に帰るか? 無理はしなくて良いんだ。」
「帰らないよ、渡兄ぃ! 広い世界を見せてくれるんだろ?!」
オレは弾かれたように大きい声をだした。
この山道には、
オレ達は薬売りだ。
薬売りは、渡兄ぃの趣味と実益を兼ねている。渡兄いは、
「ああ、そうだな。家族も好きだが、やはり旅が良い。
とまた笑った。オレは渡兄ぃの明るい笑い声が好きだ。けして弟を見捨てない、優しい兄なのである。
渡兄ぃは、
「オレが誘ったんだもんな。一緒に広い世界を見ようぜ!」
とニコニコ笑いながら、坂道を下ってオレの近くまで来て、オレの薬草の入った
随分これで身体が楽になる。
「ありがとう。渡兄ぃ。うん、広い世界、見せてくれ!」
オレは渡兄ぃと二人きりで旅するの、すっごく楽しみにしてたんだ!
二人揃って歩きだし、渡兄ぃは、
「
と染み透るような声音で言い、ガシガシとオレの頭を撫でてくれた。
「うん。オレ、頑張るよ、渡兄ぃ!」
オレは、家族に愛されてる。否、の言葉を、オレは持ち合わせていない。
山を渡る
ところどころ、山桜が咲き、淡い桃色に山を染める。かたかご(カタクリ)の花も、地面に桃色の彩りを添え、ほとけのざ、すずなが黄色い可愛い花を咲かせている。
長く山道を歩き、豊富に湧き出る清水で、ひんやりと喉を潤した。
山を吹き抜ける風は清涼で気持ちが良い。
「山はまだまだ続くの?」
もう一刻(2時間)以上山登りしている。だが上がまだまだ見通せない。
「こんな上に
素直な疑問を口にすると、
「
ぱあっとはち切れそうな微笑みで渡兄ぃが言った。
「えげぇっ。薬売り、じゃないの?」
オレはぎょっとする。
「そうさ。まあ聞けよ。そこは立派な門があってな。上に通路が作ってあって、その下をくぐれるんだってよ!
面白そうだろ?
あと綺麗な池があってだな、その池に
まるで恐れ多くも
渡兄ぃはがっはっは、と笑う。
そう、だから趣味と実益、なのだ。
渡兄ぃの性格は知ってる。
だけど、薬売りの仕事だから、と思って頑張って登ってきたのに!
当たり前だけど、朝から歩き通しの上、この山道だ。足はパンパン、棒切れのようになっている。
オレは無言で下を向き、ゲシゲシッと地面を蹴りはじめた。
「お? どうした
くりん、と澄んだ目で渡兄ぃが首を傾げる。
オレはそれに応えず、更に杖で地面をガッ、ガッ、と
「
山よ、人に
無理か。
心無い山め。
────完────
ももきね旅の草枕 加須 千花 @moonpost18
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