メルヘンチックな妖精の国に目覚めたアニスの不思議な旅の行方は……

 騙されてはいけません!これは見た目通りの話ではありません!【ネタバレレビューにつきご注意下さい】

 序盤。妖精の国に迷い込んだ男と、「えーあい(アルカニック・インテンション)」の少女フィサリスが妖精マカシに頼まれて「お花見」をする旅に出ます。

 ファンタジックな世界観が彩り鮮やかに描写されていて、メルヘン小説として楽しく読めます。妖精の中にもちょっとした諍いはあるようですが、何せ血も武器も無い世界のお話ですから、血生臭さは一切なし。

 しかし中盤から後半に掛けて「えーあい」が如何なるものか語られると、ほんわかメルヘンにも影が差します。
 「お花見」のために行くエッシャ公国でのエピソードは冷戦時代のベルリンを思わせる茨の壁があり、民族差別がある。洗脳紛いの「教化えーあい」なる物騒な物があり、秘密警察じみた「しーくれっと庭師」の存在がほのめかされ、プロパガンダがあり、フェイクニュースがある。

 ヒトが妖精を奴隷とし、その妖精を管理するために「えーあい妖精」を造り、ヒトの堕落を突いた妖精が逆にヒトを奴隷とする構造が明らかになる、その過程がスリリングに描かれる「ポリティカル・メルヘン・サスペンス」だったのです。

 くそう!フィサリスとイチャイチャするんじゃないのかよ!騙された!

 などと身勝手な怒りを感じながらも、次々と明らかになる妖精の国の様相に頷きながら、どんどん読み進めてしまう。そんな作品でした。
 賢いヒロイン中編コンテスト応募作品なので、まだ物語には語られていない部分も多いのですが、それがまた飢餓感を煽ってくる!
 それを覚悟の上で、是非ご一読頂きたいと思います。オススメです!