トキネさんのイラストもすごくいいんです。

これは、何系の小説と紹介したらよいのでしょう? 単純なバトルものでもないし、もちろん恋愛ものでもない。タイトルに『連続活劇版』とあるので、アクションものとでも言えば当たらずも遠からずでしょうか。実に不思議な雰囲気の小説なのです。

喫茶『乃木坂』でマスターをしているトキネさんは20代の見た目ながら、ときに奇妙なほどの落ち着きを見せるミステリアスな美女です。彼女は決して動揺しません。それでいて、正義感をたぎらせる熱い一面も持っています。現役の吉森大臣を「テルちゃん」呼ばわりしたり、襲撃現場で奇妙に落ち着き払った様子を見せたり、しょっぱなから気になることばかり。

語り手の北原氏は34歳。トキネさんを見てなぜだか引きつけられ、それから『乃木坂』通いが始まります。トキネさんに関わるようになった北原氏は、彼女の予想もつかない行動に振り回され、心の中でいつもつっこんでいます。

トキネさん、北原氏、それに吉森大臣の秘書の草壁さん、その他大勢出てくる関係者がみんな穏やかなのが本作の大きな特徴だと思います。いつでも心のどこかにひとかけらの冷静さを保っている、そんな雰囲気です。だから、どんな精神状態の時でも読めるのです。自分が精神的にちょっと動揺しているときなどにこの作品を開くと、いつのまにか気持ちが落ち着きかけている、そんな不思議な効能を持つ小説です。なぜそんな気持ちになるのか。それはトキネさんの生い立ちに大きな関係があるのでしょう。読んでみてください。

第一話にトキネさんのイラストへのリンクもあります。このイラストがまた味わいがあって、好きです。