✾ Episode.1 ✾ ~ おまけ ~

「あった‼」

 朱猫あかね歓喜かんきこえげた。

「あったよ、おにいさん‼」

 朱猫あかねは、砂浜すなはまげられた拍子ひょうしげられたタンスと椅子いす隙間すきまばして、画面がめんれたうすっぺらいスマホをげた。

画面がめん、つくか?」

 夕樹ゆうき朱猫あかねっているスマホをのぞむようにしてる。

「んー」

 ボタンというボタンを長押ながおししてみたり、画面がめんをタップしてみたりしたけれど、やっぱり予想通よそうどおり、スマホに反応はんのうはない。

「まぁ、つかっただけでもしとするかぁ。ありがとな、つけてくれて」

「うん! アカネ、やくったでしょ?」

「ああ、やくった」

 夕樹ゆうき朱猫あかねあたまやさしくでてやる。朱猫あかねすこれくさそうにしていたが、それでもちょっぴりうれしそうにわらっていた。

「よし、じゃあくるまくか」

「あい!」

 朱猫あかね元気げんきよく返事へんじをして、それから、はまげられた漂流物ひょうりゅうぶつゆびさした。

「あー、それは――」

 夕樹ゆうき腕組うでぐみをしてすこかんがえると、「ほっとこう。それは俺達おれたちにはどうすることも出来できん」とった。

 夕樹ゆうき先導せんどうしてはまあるく。そのうしろを朱猫あかねいてくカタチで駐車場ちゅうしゃじょうはいった。

 さいわいにもくるまかぎ車内しゃないわすれていたし、不用心ぶようじんにもくるまいたままだったので、二人はすんなりむことができた。

「……あー、しまった」

 座席ざせきすわったあとで、夕樹ゆうきはちょっと後悔こうかいしたようにった。

さきにビニールぶくろかぶせておくんだった。おれらどうみてもみずれてよごれているんだから」

「――大丈夫だいじょうぶだよ。あとであらえば」

「んでもなぁ、なか掃除そうじって結構けっこう大変たいへんなんだぞ」

 いながら夕樹ゆうきはエンジンをけて、ヘッドライトを点灯てんとうさせた――ちょうど、そのとき。

「ちょっときみたち」

 ふいにくるまのボディをコン、コンとたたおとこえ、夕樹ゆうきくるま発進はっしんさせるのをめた。それからまどけてかおすと、だるそうなかおをした警察官けいさつかんが二人、検問けんもんあやしいことや、うたがわしいことがないか、いただして調しらべること】のために車両しゃりょうまえちはだかった。

「さっきこのあたりから通報つうほうはいったんだが、きみたちなにらんかね」

「あー、そのことならおれってますよ」

 夕樹ゆうきかる口調くちょうこたえると、「じつはあそこの海辺うみべで、おやれずにどもがある いていたのをたって人と、さっきいえちかくでばったりってね、そのひとかなりあわてた様子ようすだったんで、おれになってこえけてみたんですよ」と海辺うみべゆびさして、二人の警察官けいさつかん注意ちゅういらした。

「なんでも『きゅうおんななみさらわれた!』とか、『きゅう漂流物ひょうりゅうぶつながれてた!』とか、あせった口調くちょうでよくからないことをうものだから、おれになって、散歩さんぽがてらむすめ一緒いっしょ様子ようすたんですよ。――ああ、むすめはよく『ねむれない』と、よる駄々だだをこねるもので。

 それで、いざてみれば――いやぁ、なになんだかさっぱりですね。本当ほんとう漂流物ひょうりゅうぶつがたくさんながいている」

 夕樹ゆうき平然へいぜんとした態度たいどで、でたらめなことをいながら、より信憑性しんぴょうせいたせるためにくるまからりて、親切心しんせつしんたっぷりで浜辺はまべげられたガラクタのやまゆびさした。

「ほら、えます? かげになってえにくいでしょうけど、あそこにあるくろ物体ぶったい、ぜんぶうみからながれてきたやつらしいですよ」

だれかがここに、いらないものをてたんじゃないのか?」

 警察官けいさつかんの一人が腕組うでぐみをして、うたがわしとおくのかげにらみつけている。

なみげられたとっても、あれだけおおきいものながくとはおもえん。津波警報つなみけいほうていないのに、どうやったら、あんなにも沢山たくさんものちあがるのか理解りかいできん」

「でもアレが事実じじつですよ。おれなにかをくわだてようと一人ではまはこんだ——とかっていうはなし現実的げんじつてきじゃない。事情聴取じじょうちょうしゅでもすればあきらかだけど、あの漂流物ひょうりゅうぶつ昨日きのうまでそこにかったモノなんだ。大人おとなでも一人ではげられないモノがほとんどだしね。どうにかできるレベルではないでしょう」

 夕樹ゆうきがそのくちから流暢りゅうちょう日本語にほんごながしているあいだ警察官けいさつかんは「ふーむ」とうなりながら、どこか納得なっとくのいかないかおをしていた。

 そこで夕樹ゆうきはここぞとばかりにたたみかける。

なにかんがえているかはらないですけど、一度ご自身じしんげてみれば真相しんそうがハッキリするんじゃないですかねぇ」

「まぁ、そうだな」

おれげてみようかな」

 もう一人の警察官けいさつかんすこしだけうれしそうにうので、おとこは「やれやれ」とくびよこった。

げるなら、げて。るなら、もっとちかくでてくださいね。アレは普通ふつう家具かぐとかじゃなかった。第一発見者だいいちはっけんしゃがここにいないのは残念ざんねんですけど、おれたちもアレをたところでどうにも出来できなくて、こまっていたところだったんです。おまわりさん、アレをなんとかできませんか?」

なんとかってってもねぇ……、それをいま必死ひっしかんがえているんじゃないか」

 夕樹ゆうきたくみな言葉運ことばはこびで、完全かんぜん警察官けいさつかん注意ちゅういれている。二人がぶつぶつと自分じぶんかんがえをくちして、大方おおかた漂流物ひょうりゅうぶつられているだろうことを確認かくにんすると、夕樹ゆうきあしあしで、一歩いっぽずつ二人から距離きょりをとった。

 そうして二人に気付きづかれず、くるまのそばまであしはこびきると、なか朱猫あかねっているのを確認かくにんして、そっと運転席側うんてんせきがわのドアをけた。

「でもみょうはなしだな」

 警察官けいさつかんの一人がかおげた。

おれ事務所じむしょ最初さいしょ受話器じゅわきったんだ。電話でんわこえおとこのもので、たしかあんなようなこえをしていた」

「それはのせいだろう。あのおとこは『べつひとからいた』とっていたぞ。なかこえのレパートリーなんてすくないものさ。そんなことより――」

 もう一人の警察官けいさつかんなにかをいただそうとしてかえったとき、そばにいたはずのおとこ姿すがたえていた。おまけに、くるまもない。

 かれほうけた表情かおで、もう一人のおとこかおをじっとつめる。

「あのおとこあやしくないか?」

「だから、それはさっきおれっただろう。あのときの電話でんわ相手あいては、やっぱりあのおとこ間違まちがいなかったんだ」

「でもげられたな」

「ああ、げられた。車種しゃしゅはレヴ●ーグだってことはかったが、くるまのナンバーをるのをわすれたよ」

おれわすれた」

 二人の警察官けいさつかんは、おたがいにつめって溜息ためいきいた。

「それにしてもおれたちの課題かだいは、あの漂流物ひょうりゅうぶつをどう処理しょりするかってことだ。明日あしたになったら近隣住民きんりんじゅうみんから連絡れんらくがあって、『始末しまつしてくれ』とかなんだかわれるんだろうからさ」

 おとこはまた「やれやれ」といきいて、腕組うでぐみをした。

苦情くじょう電話でんわやら、にせ迷惑電話めいわくでんわやら、面倒事めんどうごとはいつもおれらにまわってくる。ほんとうえやつらもはたらけってのな」

 おとこがしかめっつらで、ぶつぶつ文句もんくっていると、もう一人のおとこ突然とつぜんかたさぶってきた。

「なんだよ、おれいま不平不満ふへいふまんあたまなかがいっぱいなんだ」

「ちげーって! ほら、アレてみろよ」

 おとこすこあわてた様子ようすだったので、かれうでんだまま、大人おとなしくゆびさすほうてみると、不思議ふしぎなことに沢山たくさんあった大小だいしょうさまざまな漂流物ひょうりゅうぶつが、ぷくぷくあわになってはじめているではないか。

「……どうなっているんだ」

 おとこ自分じぶんゆめまぼろしでもているのかとおもってこすってみたが、事実じじつとしていまこの瞬間しゅんかん、さっきまでそこに存在そんざいしていたモノがあわになってえていくのを目撃もくげきした。

「――おれたち、ゆめでもているのか?」

「これは間違まちがいなくゆめだろ。それ以外いがいにはありない」

「んー、たしかになんだかねむ 

 くなってきたような……」

「ああ、おれもだ」

 二人の警察官けいさつかんはそのでヘナヘナと地面じめんにへたりむと、突然睡魔とつぜんすいまおそわれた様子ようすですぐにねむりにちてしまった。



 ――翌朝よくあさ

 二人の警察官けいさつかん近隣住民きんりんじゅうみん通報つうほう無事保護ぶじほごされ、しょへともどってった。そのとき、仲間なかま警察官けいさつかんから「昨日きのうなにがあったんだ?」とかれたが、二人ともそのとき記憶きおくをすっかりくしてしまったようで、「昨日きのうなにがあったかからない」ということしか、からなかったそうだ。



            

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