いいわけはいいですから!【KAC20237:いいわけ】

汐凪 霖 (しおなぎ ながめ)

そのいいわけで、いいわけ?

「頼むよレッリ~」

「ぼくに振らないでよ迷惑だよマリオ」

 楽弓の竿を柔らかなガーゼで拭って飛び散った松脂を浄めている横で、グズグズうじうじしている図体の大きな男に一息で答える。

 なんでだろう。

 他人に根源的な恐れというか忌避感とさえ云えるような気持ちを持つ自分が、彼に対しては何の不安もなく口を利いて、ぞんざいに扱うことまで出来てしまう。

 自分が誰かに酷薄な態度をとるなんて。

 少し前まで、考えられなかった。

「悪気は無かったんだ。ほんとに」

「なら彼女にそう言いなよ」

「もう言った」

「そしたら、なんて?」

「〝いいわけはいいですから!〟って」

 悄然とするマリオに。

 ため息で返事してやった。

「レッリぃ~」

 手入れを終えた楽弓をケースに仕舞う。丁寧に保護布で包んで。

 かちりと蓋を閉じると、目を上げた。

 無駄に輝く瞳と目が合う。睫毛も濃くて、なんていうか、もう、目だけでも暑苦しい。

「だって仕様がないじゃないさ。ダリラは、きみのこと大事に思ってたから、予約してた練習室を譲ってくれたんでしょ。あの強面の用務員ビデッロに果敢に頼んでさ。なのに、それを更に別の人に譲るなんて。しかも女の子に。怒るに決まってる」

「いや、でも、この後すぐに試験を受けなきゃいけなくて練習しないと落第するって泣いてたんだぜ。可哀想だろ」

「きみの試験も明日じゃなかったっけ。もう練習してきなよ」

「おれは大丈夫だ完璧だ!」

 胸を張る。筋肉が目に暑い。

「それより、頼むよレッリ。お前の言葉ならダリラも聞いてくれる!」

「まあ、九歳児を邪険にするなんてことはするわけないかもね」

「お前は九歳にしちゃ賢いからな」

 お世辞ではなく本心なのだろうけど。だからって、人と人の橋渡しなんて、ぼくには無理。なのに、断り続けてもマリオは諦めない。

「それにダリラは お前のに弱い!」

「……」

 マリオがはっとする。

「悪気はない」

 いいわけが不適切!

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