第30話 クレオパトラ、地球文明の発展を語る…その②
こうしてヨーロッパを含むユーラシア大陸では広い地域で人口が増大し、
家畜が増え、交易と戦争で人の動きが活発になった。
主要都市では人口が増え、過密から次第に不衛生になっていく中、
そもそもキリスト教には体を清潔にするという概念がないから、
着のみ着たままで皆益々不潔になり、トイレや下水が未発達だった事で
汚物も垂れ流し放題…。その上ネズミの天敵の猫を、
悪魔の化身などと言って狩りまくるという暴挙を犯した。
これらが元で、以後ヨーロッパではペストや天然痘、
麻疹、チフス、コレラ、インフルエンザといった疫病が猛威を振るう。
一番酷い時はヨーロッパの人口の4割がこれで失われた。
しかし、これら疫病の蔓延のおかげで、ヨーロッパ人は、
他の大陸に住む人間達よりも疫病に強くなった。免疫を獲得したのじゃな。
その後、航海術が発達すると、このヨーロッパに住む野蛮人共は
世界各地を航海し、そこいら中にこれらの伝染病を拡散させ、
莫大な死者を発生させた。南米のアステカやインカが滅んだ大きな原因は、
このヨーロッパ人がもたらした疫病じゃ。
場所によっては200年程で90%の人口を失った先住民までおる。
今でいう生物兵器と言って良いじゃろう。それも最悪に強烈な…。
キリスト教の毒に侵された野蛮人共はそののち、非キリスト教系の
異民族を全て奴隷化してゆき、その悪影響と禍根は今も根深く世界に残っておる。
そうして奴隷とした人間の労働力で、世界の富を収奪し、更に豊かになった。
今日名の通った大国で、きやつらの奴隷化を免れたのは日本くらいであろう。
国内に内戦を起こさせ、それに介入して政権を傀儡にするのが奴らの常套手段。
それに乗らなかった江戸末期の日本の指導者層の英知に、
そなたたちは感謝せねばならんぞ。
キリスト教はのう、神の前での平等などと言っておるが、
それはあくまで同じ白人系キリスト教徒の中でのみでの話じゃ。
自分達の宗教のみ唯一絶対と信じ込み、他の宗教や人種、文化を蔑み、
同族でも異端を徹底的に迫害するという、狂信的宗教戦闘集団…。
ヨーロッパのキリスト教徒は、世界史的に見ればそういう存在よ。
しかし、今まで述べた通りでな、きやつらは、単に環境に恵まれていた故に、
他の地域に比べて技術の発達が進んだという事に過ぎん。
そうして奴らはその進んだ技術を人類全体の進歩の為には使わず、
己の欲望を満たす為に使ったのじゃ。
たまたま恵まれた環境によって得た富や技術、
年がら年中戦争をしておった事による経験、
そして恐るべき疫病の流行とその免疫獲得…
これらの要因が偶然重なる事で、
結果的にヨーロッパは一時世界の覇者となった。
しかしのう、思いあがった者はいつか没落する。
ヨーロッパはアメリカより狭い地域に何十という国が存在し、
言語も違う。同じキリスト教徒であっても宗派が違うと
中々協力はせぬ上に、異教徒にも不寛容。その上極端な階級社会じゃから、
20世紀に入ってから2度も大戦争を引き起こし、結果大きく疲弊した。
多くの国は陸続きにも関わらず、山や川を越えると言葉が通じぬとか、
まったく呆れ果てるほど協調性に欠ける連中なのじゃ。
かつてヨーロッパ諸国は、植民地化したアフリカや南北アメリカ大陸、
アジア諸国からの収奪とその富の蓄積によって、
豊かな暮らしを享受しておったが、
20世紀の2度の世界大戦でこれらの植民地はほぼ全て失われた。
今やヨーロッパの国々は、単独では何処もアメリカ、中国、
日本に対抗できず、その差は広がる一方じゃ。
ゆえにEUという連合を作って対抗しようとしておるが、
各国の協調性のなさは相変わらずよのう。
プライドだけはまだ一流の様じゃがな。
奴隷を使ったあがりで贅沢しておった様な国々の連中に、
日本の労働環境を笑う資格などないとわらわは思うの」
「これからヨーロッパ諸国はどうなっていくと思われますか?」
一息ついたクレオパトラに鈴音先生が問いかけると、
「今のままじゃとそのまま衰退するであろうな。
EUは寄せ集めの集団。お互いを思いやろうとする精神など持っておらぬ。
故に通貨統合しても、経済政策はドイツとフランスが全てを仕切り、
富がこの2国、特にドイツに集中…する構図になっておる。
これにブチ切れたイギリスが、最近脱退したの…。
本来ならEU域内の経済力の劣る国に優先した投資が必要なはずじゃが、
まったくその気はない様じゃ。これではこれからEU域内での格差が
益々広がり、それがまた争いの種になるであろう。
2度の大戦で膨大な戦死者が出、労働力が足らなくなると、
他国から移民…実質奴隷を輸入し、それに当てた上に、
景気が悪くなって、労働力が余剰になるとほったらかす。
いい加減、自ら真面目に働く事と、他民族への思いやり、
それと協調性を持たねば先はないであろう」
クレオパトラさんがそう答えた所で、授業終了を告げるチャイムが鳴った。
「おお、もうそんな時間か。では今日はこれまでとしよう。
今回は主にヨーロッパ文明の発展理由に関して話したが、
次は金の面から見た西洋史を教えてやろう。
国の盛衰は環境や技術面もあるが、もうひとつ大きな要因は金じゃ。
金の使い方によって歴史がどう変わっていったのか、
これを知るのもまたよかろう」
「金か!やはり世の中は金で動いておるのじゃろう。次回も楽しみよ…」
俺のすぐ前の席にいる岩崎弥太郎が、
めちゃくちゃ濃い顔に不敵な笑みをたたえている。
俺はアレックス岡本の傍に行って弁当を広げながら、
ビル・Gといい、この岩崎弥太郎といい、土方歳三といい、
この2年G組のクラスの面々のキャラの濃さに
改めて関心するのだった…。
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