第20話 おがちん大忘年会!…その①

みなさん、こんにちは。

如月雪音です。季節が流れるのはとっても早いですね。

2023年もあっという間に年末を迎えました。

早苗実業学校も12月20日から冬季休暇に突入しています。

さて、年も押し詰まった12月28日…

大衆食堂おがちんは、15時より貸し切りとなっています。

予約の主は如月鈴音…母上様です。


私と天音ちゃんは、15時前にはおがちんさんにお邪魔して、

会場作りと料理作りを手伝っています。

何しろ今日は結構な人数が来られるので、緒賀さん夫妻だけでは、

準備が大変…おがちん先生も合わせた5人で、掃除に部屋の飾りつけ、

お料理やお酒の準備等、てんてこ舞いです。

みんなで頑張ったおかげで、開場の17時の15分程前には

全ての準備が整いました。お鍋の準備も完了、

後は具材を投入して、火をかけるだけですね。

おがちんの名物を沢山並べた立食形式の忘年会です…!


丁度その時、母上様が成田空港まで迎えに行ったふたりの女性と、

3人で一緒におがちんに入って来られました。

母上様と入ってこられた2人の女性…

私は5年前に八百比丘尼の村でお会いした事があります。


「ここが鈴音が旨いと言っておった店か、余の舌を満足させられればよいがの…」

おがちんに入るなりこう言われたのは、クレオパトラ7世 フィロパトル…

歴史上有名な美女…クレオパトラさんです。

「これは雪音に天音…随分大きく綺麗になりましたね!

それと…良い匂いがします。お料理とお酒が楽しみです!」

そう言われたのは一緒に入って来られたもうひとり…。

楊 玉環…楊貴妃さんですね…。

あとひとり…小野小町さんも間もなく来られるそうです。

皆さん、みんな八百比丘尼なのですよ…♡。


今日は鈴音母様と親しい八百比丘尼のみなさん、

おがちん先生、私に天音ちゃん、あと千葉さな子先輩、早苗実業高等部で

関係のある有志の先生達、1年生の友達も集まります。

一言でいうならおがちん大忘年会ですね!

お互い見知らぬ人もいらっしゃるので、一応全員名札を付けて貰います。


17時過ぎには招待された全員が集まり、みんなでコップにお酒や

ジュースを注ぐと、おがちん先生が代表で乾杯の挨拶をします。


「皆の衆!わがおがちんで盛大な忘年会を開いてくれるとは感謝感激!

恐悦至極!今日は普段3日の所、5日煮込んだ特別バージョンの

牛筋煮込みも用意したぜ!この1年も色々あったが、文字通りの忘年会、

いらぬ事は全て忘れて今年最後のロックンロールだ!それでは乾杯!!」


「かんぱ~い!」

全員で唱和して、いよいよ楽しい忘年会が始まりました…。


「うむ…この牛筋の煮込みとやらはなるほど美味じゃの…」

クレオパトラさんは早速母上様と日本酒を酌み交わしながら、

牛筋煮込みを頬張っています。

傍には楊貴妃さん、小野小町さん。

歴史に名高い世界3大美女のそろい踏み…。

きっと見るだけで物凄く価値があると思います。


早速傍に来たおがちん先生…名札を見て…

「牛筋旨いっしょ?…クレオパトラ7世 フィロパトル…芸名っスか?」

「この馬鹿ちん、余を誰と心得る!」

「だって、クレオパトラがここにいるはずがないっしょ?

しっかし綺麗なお嬢さんッスね~~~」

おがちん先生…すでにフルスロットルです…。


「雪音、お前はきちんと男を見る眼を養うのじゃぞ、

こんな馬鹿ちんに引っかからぬ様にな…」

クレオパトラさんは、私の方に向き直ると真剣な眼をして言われました。

「まあ、あまりに最高の男を知ってしまうと、

他がつまらなく見えてしまうというのはあるがの…

ユリウス・カエサルなぞ知ってしまったら、

他の男などどうでも良くなる故な…。

カエサルの前にカエサルなく、カエサルののちにカエサルなしじゃ…」


ガイウス・ユリウス・カエサル…

英語読みでジュリアス・シーザー。

世界史上最も有名な人物ですが、クレオパトラさんは

一時期彼の愛人になっておられました。

どんな人物だったのか、是非一度聞いてみたいものです。


「ではみなさん、これから忘年会を盛り上げる為に、

有志による出し物を披露したいと思います。

一番目は我が如月家、伝統の芸になります。

今日に備えて娘の雪音と天音が練習してきましたので、

とくと御照覧あれ!」


母上様は最初に特設のお立ち台に立つと、マイクを持ってこうおっしゃられました。

そう。私と天音ちゃんは、今日に備えて如月家の伝統芸を練習してきたのです…。

私と天音ちゃんは準備を済ませると、これも如月家伝統の巫女の正装で、

お立ち台に上がり、挨拶をしました。


「みなさん、こんにちは。如月雪音です。今日は忘年会の余興として、

如月家の伝統芸を披露させて頂きます。

まだ母上様の様に完璧ではありませんが、御笑覧頂ければ幸いです!」


私の挨拶が終わると、天音ちゃんが続けます。

「それではみなさん、お手を拝借。こんな調子で手拍子をお願い致します…

パン…パン…アさて!」


「アさて! アさて! アさてさてさてさて! さては南京玉すだれ…!

チョイと伸ばせば 浦島太郎さんの 魚釣り竿にチョイと似たり…

浦島太郎さんの 魚釣り竿が お目に止まればおなぐさみ…

お目に止まれば元へと返す!」


一番は誰もが知る昔話…「浦島太郎」を題材とした有名な技。

玉すだれを長く伸ばして、

浦島太郎が持っていた釣り竿に見立てます…。


「アさて! アさて! さては南京玉すだれ!

チョイと返せば 瀬田の唐橋 唐金擬宝珠… 

擬宝珠ないのがおなぐさみ…

瀬田の唐橋 お目に止まれば元へと返す!」


【瀬田の唐橋(せたのからはし)】は、滋賀県大津市の瀬田川に架かる橋。

唐金擬宝珠(からかね・ぎぼし)とは、

橋の欄干にある青銅製のタマネギ状の装飾のことですね。

これをすだれを使って上手く表現します。


「アさて! アさて! さては南京玉すだれ!

チョイと伸ばせば 阿弥陀如来か 釈迦牟尼か…

後光に見えればおなぐさみ…

阿弥陀如来が お目に止まれば元へと返す!」


阿弥陀如来(あみだにょらい)は、鎌倉の大仏で有名な阿弥陀仏です。

釈迦牟尼(しゃかむに)はお釈迦様。細く伸ばした玉すだれの両端を持ち、

丸く形作って後光を表現します…。


歌と演技の間中、大きな手拍子が会場に鳴り響き、

終了すると盛大な拍手が起こりました。

「いよ!…日本一!!可愛いね~~~!」

誰かの声に私は思わず赤くなります。

でも練習したおかげで天音ちゃんとの息もピッタリで、

ふたりで上手く可愛くシンクロ出来ました…。

とっても良かったです!


…その②に続く。

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