第21話 おがちん大忘年会!…その②
南京玉すだれの「南京」は、言うまでもなく中国の都市名ですが、
南京玉すだれ自体は日本で独自に生み出された芸能なのですよ。
では、なぜ「南京」なのか?と言うと、
それは、演技の前に行う前置きの挨拶、
いわゆる「口上(こうじょう)」の文句がルーツとなっているのです。
「先御免を蒙りまして、京・大坂・江戸、三ヶの津に置きまして流行り来るハ、
唐人阿蘭陀南京無双玉すだれ、竹成る数が参拾六本、糸の数が七拾と弐結び、
糸と竹との「はりやい」を持ちまして、神通自在御覧に入れます」
この口上にある「唐人・阿蘭陀・南京・無双(とうじん・おらんだ・
なんきん・むそう)玉すだれ」の謳い文句が、「南京玉すだれ」の
名前のルーツになっているのです。
唐人(とうじん)とは中国の人、阿蘭陀はオランダ、南京は中国の街、
無双とは「比べる物がない」といった意味です。
つまり、「中国(南京)やオランダでもこんな珍しいものはない」という
宣伝文句だったりします。
母上様は江戸時代に生きている時、当時最先端のこの踊りを練習して、
芸のひとつとして身に付けられたそうです。
世の中では「芸は身を助ける」と言うらしいのですが、
母上様によれば、それはその通りなのだとか。
特にお互いあまり見知った仲ではない人々と仲良くなる為には有効なので、
こうした芸能に通じておくのも、八百比丘尼としての大事な
たしなみなのだそうです。
何しろ、私達が見知っている普通の人達は、
皆私達より先に次から次へとみまかられて逝きます。
八百比丘尼は、常に一定の期間で人間関係がリセットされてしまうので、
その度に新しい人間関係を構築しなくてはなりません。
多彩多芸になれば、そうやって新しい人間関係を作る時の助けになりますよね。
変幻自在に姿を変える玉すだれ…そんな柔軟性を持つことこそ、
八百比丘尼の生きる術だと母上様はおっしゃられました。
実際にすだれを使って変幻自在に形を作るには、結構な修練が必要です。
特に姉妹ふたりでシンクロして演技するには、すだれを動かしながら
ふたりの息を上手く合わせる必要があります。これには私達も随分苦労しました。
人間関係というのも、突き詰めればこういう事と同じなのかも知れませんね。
でも、上手く行ったときの爽快感、それを大勢の皆さんに見て頂いた上に、
盛大な拍手まで頂けた高揚感で、苦労も一気に吹き飛びました。
さて、この日の忘年会は、その後おがちん先生と有志によるおがちん音頭の
踊りと演奏、その他諸々の出し物が続き、最後は…世界の3大美女、
その3人のオリジナル曲によるバンド演奏でピークを迎えます。
唄を歌うのは小野小町さん、中国の伝統楽器「二胡」弾くのは楊貴妃さん、
パーカッションはクレオパトラさんです。
お三方ともさすがはベテラン。その芸の高さは極みに到達しており、
とても単なる宴会芸などと言えるようなものではありません。
クレオパトラさんの刻むエキセントリックなリズム…
それを彩る小野小町さんの唄と楊貴妃さんの二胡。
そして皆さまの絶世の美貌…。会場の全員が瞠目し、
静かになり、そして曲が終わるたびに盛大な拍手が起こりました。
「鈴音!ひさしぶりの日本じゃ、楊貴妃共々暫く滞在致す故、
色々案内して欲しいものぞ!酒も色々試したいしの!」
お酒が入って上機嫌のクレオパトラさんが、鈴音母様の肩に絡んでいます。
お酒を飲んで少し赤い顔をされた、チャイナドレスの楊貴妃さん…。
私が言うのもなんですが、やばい程綺麗です。美しいです。
小野小町さんの周りには男の人が何人も集まって…口説いているのでしょうか…?
お三方とも暫く東京に滞在される様なので、
今年のお正月は華やかに…かつ艶やかなものになりそうですね…。
ともあれ、初めて過ごした普通の皆さんとの…早苗実業学校での1年は、
私にとってとても実りのあるものになりました。
来年もきっと良い年になります!きっとそうですよね!
私は心からそう願うのでした…。
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