第11話 軽音学部へGo!
その週の金曜日の放課後、俺は岡本と軽音楽部の部室に居た。
今日から本格的な部活が始まるからだ。
この学校の部活や同好会活動は規制が極めて緩く、
公序良俗に反さず、法律に違反せず、
後は5人以上集めて申請すれば同好会、
部員が15人以上になれば部活動として登録できる。
だからわけのわからない同好会とか部活がやたらと乱立してる。
忍者同好会とか、異世界研究訪問会とか…。
昨日の夕方なんか、バニー服姿の女子生徒が校門でチラシ配ってた。
【SOZ団 団長 涼宮ハルミ。宇宙人、未来人、
超能力者が居れば私の所に来なさい!】なんだそりゃ…。
軽音学部は早苗実業学校でも伝統あるクラブのひとつで、
ロック/ポップス/フォーク/ジャズとか、まあ、オールジャンルで
気の合う奴と集まり、自由に音楽をやれば良しという事らしい。
俺と岡本が来たのは、元々中学時代から楽器をやっていたし、
高校時代は是非本格的なバンドを組みたいと思っていたからだ。
バンドマンはモテると言うしな…。
その日来た入部希望者は10名。俺のクラスからは俺と岡本、それと驚いた事に
あの如月雪音がいる。あの娘、何か楽器できるのだろうか…?
あれこれ思っている内に、ガラガラと教室の扉が開き、
白い髑髏の描かれた黒Tシャツに、ピチピチの黒のレザーパンツ、
それと黒のグラサンに派手な赤のバンダナを巻き、
場違いなサンダルを履いた、長身長髪髭もじゃの男が入って来た。
ああ、最初うちのクラスの担任になる予定だった緒賀某だ。
教室に入って来るなり、奴は言った。
「集まったかベイビー達。俺がこの部活の顧問の緒賀だ!
初めに言っておくが、世の中には2種類の人間しかいない。
ロックンローラーとそうでない奴だ!!」
うぉ~い!とかイェ~とか周りの先輩達が中指を突き上げながら声を上げる。
【中々ノリの良い部だな~】
緒賀は話を続ける。
「それからロッカーに歳は関係ない。上下関係はなし、敬語など不要、
これからは俺が決める愛称で呼び合うのだ…」
「うぉ~い! イェ~!」教室で声が飛び交う。
「ではこれから早速新入部員の愛称の命名式を始める。
50音順だな…。ではまず1年A組の大橋!」
「はい!」俺は答えて立ちあがる。
「馬鹿者!返事ははい!…ではなくイェ~!だ」
「イ、イェ~~~」
「よろしい。名前は修(おさむ)か…なら今日からお前はオジーだ。
オジーと名乗るが良い」
「イ、イェ~~イ!」
「それから貴様、髪が短い。ロッカーはもっと長髪であるべきだ。
何故メイクをしておらん?指にマニキュアもすべきだぞ。
髑髏の指輪も必要だ!」
「イ、イェ~~イ!」
【このおっさん、確か生徒指導担当じゃなかったっけ?大丈夫か?】
「よし、次は同じA組の岡本!」
「イェ~イ。」奴は同時に両手の中指を突き上げた。
「名前は章(あきら)か、ならお前は今日からアレックスだ!」
「イ、イェ~~イ」
こんな調子でその場所の新人10人全員が命名された。
ちなみにあの如月雪音の命名は【ユッキー】だ。
彼女が顔を真っ赤にして、小さな声で【イェ~】と言っていたのは可愛かった。
命名式が終わると、各自自己紹介と好きな音楽、それから楽器が出来る場合は、
軽く演奏して技術を披露してみろと言われた。
俺はちょっと古いがビートルズが好きで、尊敬するベーシストは天才として
その名を遺す「ジャコ・パストリアス」だと答え、
彼のベースソロの一節を弾いた。【おおー!】と声があがる。
「ほう、その歳でジャコを弾くとは中々見込があるな。じゃあ、お前の愛称は
オジーではなく、パストリアスとしよう」
緒賀の一言でおれはパストリアスになった…。
アレックスの奴はギターでクィ~ンの一節を弾いていたが、
あまり様になっていなかった。
あいつはまあ、音楽よりもかしらん文学派だからな…。
10名の中には楽器が出来ない本当の初心者も居て、その場合は自己紹介
だけだったり、歌を歌ったりしていたが、圧巻だったのはやはりと言うべきか、
ユッキーこと如月雪音だった。
おもむろにピアノの前に座った彼女は、モーツァルトの曲の中でも名曲かつ
難曲として知られるピアノ協奏曲23番第一楽章を、
独自のアレンジで完璧に弾きこなしてみせたのだ。
これにはノリの良い教室の雰囲気も一瞬静かになった。
「よし、今年の新人は中々有望な様だ。
しかし、言っておくがロッカーには技術も大事だが、
一番大事なのはその精神だ!ロック魂を忘れるな!いいか!」
緒賀先生が大きな声で一喝すると、「イェーイ!!!」
全員が右手の中指を虚空に突き上げた。その一瞬教室が激しく振動した。
こうして俺たちの軽音学部での最初の日は終わったのであった。
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