第6話 早苗実業学校高等部、1年A組。
2023年4月、早苗実業学校高等部普通科。
1年A組に大橋修という男子生徒がいる。つまり、俺だ。
4月8日に入学式が終わってその翌週…つまり今日から授業開始になるのだが、
まず最初に入学式の後に紹介があった緒賀某とか言う、
男の教師によるHRから全てがはじまるはずである。
まあ、そんな事はどうでも良い。男の教師なんぞに大した関心はないし、
それよりもどんな連中とクラスメートになるのか、それの方に
興味深々というところだ。特に女子生徒に…。
この高校に入るには、かなり厳しい受験戦争を勝ち抜かねばならず、
中学時代に通っていた塾から受験した15名の内、合格したのは俺と、
小学校時代からの腐れ縁、岡本章(あきら)のふたりだけだ。
あの何かと言えば…かしらん、などと語尾をつける太宰治みたいな野郎が、
なんでこの学校に合格したのか良くわからんが、考えてみれば、
奴は小学校の頃から地頭だけは良かった。
世の中には大して努力なぞしなくても何とかなる、そう、教科書を
さらっとなぞっただけで、全て頭に入る様なけしからん輩がいるが、
あいつは確かに昔からそういう奴だった。
その腐れ縁、岡本章が偶然自分のすぐ後ろの席にいるというだけで、
この世は広いんだか狭いんだか、良くわからんものだと考えていた所、
突然教室のドアが開かれ、教室に1人の女性が入って来た。
その瞬間教室全体が騒めく。そう、ガタイが良くて背が高く、
長髪髭もじゃの…緒賀某とはまったく違う人物だったからだ。
先生らしきその女性は教壇に立つと、落ち着いた優しい口調でこう言った。
「このクラスの担任を拝命しました如月鈴音です。最初の挨拶なので、
元気良くお願い致します。起立…礼!」
クラス全員が起立した後、礼をする。
「緒賀先生は急遽生徒指導係をやる事になり、代わりの担任として、
私が着任しました」
如月鈴音…と先生は、黒板に自分の名前を大書した。
まるで書道家が書いたかの如く力強く美しい文字である。
まあ、文字もそうだが、びっくりしたのはその容姿である。
どう見ても高校生、いや、下手をすると中学生と
言っても通用しそうである。小柄で華奢、透き通る様な色白の肌、
長い綺麗な黒髪、それに可愛らしい白のワンピース姿である。
どこかのアニメに出てきそうな美少女キャラ…巫女キャラ。
おいおい、まじかよ…。これが俺の第一印象だった。
「私はこのクラスの担任の他、授業としては日本史と世界史を担当しますが、
この学校の独自科目である教養も担当します。
クラブは運動部の女子剣道部顧問、文化会の軽音部の副顧問になります」
鈴音先生は駆け足で説明すると、更に続けた。
「今日は最初のHRなので、この後皆さんの自己紹介をして貰います。
名前と出身校、それからひと言抱負をお願いします。それともうひとつ、
来週か再来週になりますが、このクラスには2名の編入生が入って来ます」
「先生、その編入生って、男ですか?女ですか?日本人ですか?
帰国子女ですか?」クラスの男子生徒のひとりが質問した。
「日本人の双子の女の子です。帰国子女ではありませんが、
こういう学校に来るのは初めての様なので、皆さん、仲良くして上げて下さい」
おお~!と主に男子生徒から大きな歓声があがる。
「所で先生は何歳なんですか?」さっきと同じ男子生徒が続けて質問した。
「初めて会う女性にぶしつけに年齢を聞くものではありません。
皆さんより年長であるとだけ答えておきます」
鈴音先生はすました表情で答えた。
「え~ほんとかよ~」また主に男子生徒のどよめきが起こる。
「それでは自己紹介を始めて下さい」
そう、こうして…出席番号順に自己紹介が始まった。
「おっさん、あんな美少女みたいなクラス担任に双子の姉妹の編入なんて、
いきなりなんて幸運なのかしらん!」
軽く万歳しながら後ろでほざく岡本章に、
「いいから、そのかしらん言葉は止めろ。それから俺はおっさんではない」
振り返った俺は迷惑そうに奴に言った。
俺は自己紹介は割と簡単に済ませた。趣味は楽器、主にベースギターで、
軽音楽部に入るつもりと言った程度だ。
50音順で出席番号が近い為、俺に続いて岡本章の自己紹介がはじまる。
「名前は岡本章(あきら)。瀬戸田中出身。趣味は読書とギターとキーボード。
好きな作家は太宰治。愛読書は彼の処女作、【晩年】かしらん…」
頭が痛くなってきた…。
それにしても、この鈴音先生の担当する教養授業は週にひとコマだが、
教養って、何をやるんだろう。
まあいいか、それはそれで面白そうだ…。
「HRが終わると、今日の4限目に私の最初の教養授業を行いますので、
皆さんそのつもりで…」
鈴音先生の綺麗な声が心地よく響く。暖かな春風に吹かれ、桜が香る。
こうして俺の高校生活が始まった。
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