第17話 ブルズ・ラン・ハルゼー。

7月第2週の終わり。

早苗実業学校高等部では前期末試験の結果が発表された。

選択科目を含め9科目1,000点満点で、上位300名の成績が貼り出される。

実際の生徒は9クラス370人なので、名前が貼り出されないと、

その生徒の成績は300位以下という事になる。

900点以上ともなると成績上位の10名前後しかいないのが通例らしいのだが、

俺も含め皆が目を見張ったのは…

1位 A組 如月雪音 999点…

2位 A組 如月天音 980点…

「あの姉妹、編入試験で凄い成績出したって聞いてたけど、マジで天才かよ」


俺は掲示板を見ながら横にいるアレックス岡本に言った。

ちなみに俺は690点で221位。

アレックスの野郎は806点で131位。

ここの学校の学内試験は結構難しく、今回の平均点は600点台半ばだから、

750点台はまあまあ、800点超えればかなり優秀な部類だ。

「拙僧なんか、一夜漬けでこれなのかしらん。

勉強すればもっと出来るかしらん」

「お前の言う事は一般人には当てはまらんからな…」

こういう、教科書パラパラ見ただけで暗記出来てしまう様なバカ殿の

言う事を信用していたら、俺はきっと落第するに違いない…。

そう思いながら掲示板を見ていると、一番端っこの方にこう書いてある。

『科目毎の基準点に達していない者は個別に通知する。

その場合夏季休暇中に行われる補習授業を必須とする』

【ですよね~~~!】俺は思った。

その翌週からは夏季休暇に入った早苗実業学校。

暑い中、1年A組の教室には30名程の生徒が集まっていた。

そう、1年生の前期末試験で赤点(40点以下)を取った猛者達だ。

その中にはA組の浅井茶々、浅井初、それと山本権兵衛の姿もあった。

みんなうんざりした顔をしている。まあ、当然だろう。


朝8時50分。教室のドアがガラガラと勢い良く開くと、まるでブルドッグの様な

顔をした、筋肉質で大柄な、ひとりの白人男性が入って来た。

のしのしと歩いて教壇に上がった彼は、あがるなり大声で吠えた。

「俺が貴様らの訓練教官、ブルズ・ラン・ハルゼーである。

話しかけられたとき以外は口を開くな! 口でクソたれる前と後に"サー"と言え!

分かったか、ウジ虫ども!」

皆びっくりしてシーンとしている。

「ふざけるな!大声を出せ!玉を落としたか!

【Sir! Yes!   Sir!】大きな声でだ!わかったかウジ虫ども!」


「さー…いえす…サー…」

当り前だが全員答えがぎこちない…。

「アカの手先のおフェラ豚め!ぶっ殺されたいか!?

答え無し?

魔法使いのババアか!

上出来だ…。

頭が死ぬほどファックするまでシゴいてやる!

ケツの穴でミルクを飲むようになるまでシゴき倒す!」


「サー!…イエス!…サー!…」

「まだ声が小さい!よし、A組の山本権兵衛、貴様は男子剣道部ゆえ、

玉くらいあるだろう。

立って大声で見本を示してやれ。【Sir! Yes!   Sir!】だ!」

ハルゼーに言われた権兵衛は、立って大きな声で答えた。

「サー!ごわす!サー!!」

ハルゼーはそれを聞くと権兵衛をギロリと睨んだ。

「なんだ貴様~、もういっぺん言ってみろ!」

「サー!ごわす!サー!!」

権兵衛が大きな声で答える。

「なにが【ごわす】だ!貴様いったいいつの時代の雌豚だ!

ほれ、机の横で腕立て100回!」

「サー!ごわす!サー!!」

権兵衛は自分の机の横で腕立て伏せを始めた…。


「貴様ら雌豚どもが俺の訓練に生き残れたら ...

各人は赤点持ちなどという屑から抜け出す事になる!

その日まではウジ虫だ!

地球上で最下等の生命体だ。

貴様らは人間ではない。

両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない!

俺の使命は役立たずを刈り取ることだ 、愛する早苗実業の害虫を!

分かったか、ウジ虫ども!」

「サー!!イエス!サー!!」

こうして早苗実業の名高い名物、ハルゼー先生による補習授業が始まった。


「ねえ、さな子、今年の1年の補習授業って、ハルゼーの奴なんだって?」

女子剣道部3年の中沢琴は、千葉さな子に聞いた。

「そうみたいね。1年生はまだ知らないでしょうから、正直同情するわ…」

「あなたも去年、ハルゼーの補習受けてたわよね~」

「言わないで…思い出したくもない…。【Sir! Yes!   Sir!】

 1,000回は言ったわ」

それを聞いた中沢琴は笑いながら言った。

「でも、彼のおかげで高等部の補習生徒はかなり減ったみたいよ…」

「そりゃあそうでしょうよ。USマーリン式の補習訓練と自主学習と、

どちらが良いかと問われたら、

誰でも自主学習必死にやって赤点回避するわ…

そう言えば、夏合宿に参加する1年に補習生徒はいないわよね?」


「うん、今年はいないみたいね。そう言えばあなたが必死で入部させた

1年の如月さんって、 最初全然剣道部入部になびかなくて、

みんなサジ投げてたのに、何故急に入部する事になったの?

なんかさな子が彼女の弱みを握っているんじゃないかって、

みんな言ってたけど…。彼女、男の子みたいに何でもはっきりする方だけど、

あなたに対してだけは態度が違う様な…」

「それは私が主将だから気を使っているだけでしょ…」

さな子がそっけない感じで中沢琴に答えると、


「ふ~ん、ほんとにそうなのかなぁ~。なんかあなたに対してだけは

妙にしおらしいと言うか、女の子らしいと言うか…」

「関係ないよ。そんなことないって!」

さな子はいつになく強く否定した。

「ふ~ん、ま、いいか。でも彼女、可愛くて女の美少年みたいで人気あるよね。

性格もサバサバしてて、素直だし。

部員の中でもかなり人気あるよ。色々楽しみね!」


「そうね。腕も相当なものだから、今年の女子剣道部は

頂点を目指せるかもね…」

さな子はそういうと夏季練習の為、稽古胴着を付け始めた。


実は体育倉庫の一件があってから、時々さな子は天音をひそかに

連れ出しては愛撫していた。

天音がとにかく無性に可愛く思えてしまうからだ。あの白い日本人形の様な

しっとりとした柔肌を思い出すと、時々悶々として眠れない事がある。

最初は抵抗する様子のあった天音も、近頃は全く抗わなくなり、

むしろさな子に体をゆだねる様になっていた。

それどころか、さな子が望むと、さな子の体をやさしく

愛撫してくれる様にもなった。

【女の子同士のひそかな戯れ…罪はないわ…でも秘密にしないとね…】

さな子はそう思うと、稽古の準備にいそしむのだった…。

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