七瀬菜々は本当にアンラッキーなのか?【KAC2023 6回目】

ほのなえ

調査結果

 隣の家に住む同い年の七瀬菜々は、7月7日生まれ。名前にも「ナナ」がたくさんついており、数字の「7」に何かと縁のあるヤツだ。


 そんな彼女に「アンラッキー7(セブン)」という異名があると、人伝いに聞いた俺は驚いた。彼女にアンラッキー要素など一つも心当たりがなかったからだ。



 俺と七瀬菜々は幼馴染で、同じ街で生まれ育ったが、七歳の頃に父親の仕事の都合で、俺は別の場所に引っ越すことになった。

 そして中学生になった今年、またこの街に戻って来たのだが……それまでの間に、なぜだか七瀬菜々に「アンラッキー7」という異名がつけられていたのだった。


(菜々のヤツがアンラッキー? ありえない)

 俺は初めて聞いた時そう思った。菜々は家も裕福で両親も優しく、何かと恵まれていると昔から思っていたからだ。


 そして幼い頃の出来事で忘れられないのは、ショッピングモールの福引で菜々と一緒にガラガラくじを回した時に、俺はハズレの白い玉だったのに対して菜々は見事一等の金色の玉を出し、ハワイ旅行券を引き当てたことだ。

 金色のピカピカ光る玉が出てきた興奮と、ハワイ旅行に出発する七瀬家をうらやましく思ったことは、今でも忘れられない記憶として鮮明に残っている。


(そんな菜々がアンラッキー? これには何か秘密がありそうだ……)



 菜々に直接聞くのは気が引けた俺は、好きな探偵ものさながらに、早速調査に乗り出した。

 まずは持ち前の行動力で学校のヤツらから情報収集をして、菜々に関するアンラッキーな逸話を集め、メモしておいた。


<情報提供者の証言>

・テストでは名前の書き忘れや回答欄の間違いを連発。

・忘れ物も頻繁にしていて、ほぼ毎日他のクラスの友だちに借りに行っている。

・修学旅行には寝坊して行けなかったなんて事件も……。

・皆は、菜々のアンラッキーに対してそういう星回りでかわいそう、と同情する。


 俺は聞いた話に、少しの疑問を感じた。

(菜々って確か、昔っからドジだったけどな。それって、果たしてアンラッキーって言うのか……?)



 そんなある日、菜々が珍しく俺の家にやって来た。

 幼馴染とはいえ、学校では菜々とは接点が全くない。俺がまた引っ越してきたことはおそらく菜々も知っているものの、この街に戻ってからはまだお互い一度も話をしていなかったから、突然の訪問に俺は驚いたのだが……。

「あの、急にごめん。あたし……家の鍵忘れちゃったんだ。うちの親、今日は遅くまで帰って来ないのに……」

 どうやらそれで困っていた様子だったから、俺は菜々の親が帰ってくるまで家に入れてやることにした。


「あーあ。今日は親がいないから家でゲームやりたい放題だと思ってたのに。あたしって本当にアンラッキーなんだよね……」

 大げさなくらいにガックリと肩を落とす素振りを見せる菜々だったが、俺は自分でも「アンラッキー」だと主張する菜々に違和感を感じ、思わず問い詰める。

「なあ。その話、噂では聞いてるけど……お前、本当に自分のことアンラッキーだと思うのか?」

「……え?」

 菜々は驚いた様子で俺を見る。

「忘れ物が多いとか修学旅行行けなかったとか聞いたけど……お前、昔からドジだったろ。それってアンラッキーじゃなくて、ただお前の注意力が散漫なだけじゃねぇの?」

 そう言った後で俺はすぐさま後悔する。久々に話す幼馴染にキツいことを言ってしまった、しかも鍵を忘れて落ち込んでいるところを励ましもせずに、さすがに優しさが足りなかったか……。


 しかしその言葉に対し……菜々はかすかに笑みを見せ、言ってのける。

「……バレちゃった? さすが幼馴染、何でもお見通しだね」


 その言葉に俺が驚いていると、菜々は話を続ける。

「実はあたし、今まで幸運でうとまれることが多くて……ズルい、自慢だ、って友だちが怒っちゃうから、あえて不運体質のフリをすることにしたの。その方が面白がって喜んでもらえたし。ついてない出来事をちょっと大げさに言ったり、不運なエピソードを自分で作って……嘘をついたりもした」

「…………」

「そうしたらそれがいつのまにか広まって、『アンラッキーな七瀬』から『アンラッキー7』なんてあだ名もついて。それにね、アンラッキーだって周りに知られてると、今まで自分が不注意なせいで怒られたことも、不運のせいに思われて怒られなくなって……正直楽なの。修学旅行の話だって、嫌いな子と同じ班だったから正直行きたくなくて……実はサボったんだけど。それだって、全部不運のせいで済んじゃったんだよね」

「そうだったのか……」


 俺は……菜々が偽りの不運体質に乗っかっているこの状況は、心のどこかでいけないような気がして、思わず口に出す。

「でもそんなこと続けてたら……幸運も寄ってこなくなるかもしれないぞ? 楽だとか言ってないで、不運のせいにしないで自分でしっかり何でもできるようにしねぇと」

「でもあたしのドジな性格、どうせ……一生なおりそうにないんだもん」

 口を尖らせる菜々に、俺は少し声を荒げる。

「何言ってんだ。まだ諦めるような歳じゃないだろ。何でもかんでも不運のせいってことにしてたら、いずれ何でも諦める性格になっちまうぞ!」

「……確かに、そうかもしれない……もうそうなっちゃったかもしれないけど」

 深くうつむく菜々に、泣き出すんじゃないかと思った俺は少し慌てて、今度は優しめに声をかける。

「簡単に諦めないで、今からでもちょっとは自分で努力してみろよ。お前がヘマしないか、俺も……これから注意して見といてやるから」

「……本当?」

 菜々が顔を上げ、俺を見る。

「お、おう……」

「……ありがと。それなら……見ててくれるっていうなら、ちょっとは頑張れるかも」

 菜々はぽつりとそう言った後、突然いたずらっぽい笑みを見せる。

「……実は今日の、家の鍵忘れたの、これも『嘘の不運』だったんだ」

「……へ? 嘘の、不運?」

「うん。本当は鍵持ってるし。でも……この家に遊びに来る口実が欲しくて……」

 そう言って菜々は俺をじっと見つめる。


 俺はその視線にドギマギしつつも……なんとか声を絞り出す。

「……な、なんだよ。……てことはやっぱりお前、アンラッキーじゃないんだな」

「……そんなことないよ。七歳の頃の……は、本当に自分がアンラッキーだって思ったんだから」

 菜々は何やら意味ありげな視線で俺を見つめ続けている。それに、まるで俺も無関係ではないという口ぶりだったが……俺は菜々の言う「あの時」が何なのか、すぐには思い浮かばなかった。


 なぜか気恥ずかしくなり、今すぐ菜々の視線から逃げ出したい気持ちになった俺は、とっさに話題を変える。

「そ、そうだ。さっきは家でゲームやりたいって言ってたろ……鍵があるんなら帰らなくていいのかよ」

 次の瞬間、菜々はころっと表情を変え、いつもの感じに戻る。

「そうだ、ゲームやりたいのは本当だった。あ、じゃあ昔みたいにさ、今から一緒にゲームやろうよ! 何か新作のソフトとか持ってる?」

 そしていつものように……引っ越す前の頃のように、俺の家のテレビの下のゲーム置き場を物色しだした。


 俺はそんな菜々を見つつ……菜々のアンラッキー体質が真実でないことについては見破ったものの、嘘の口実を作って俺の家に来るようなところや、俺をじっと見つめる意味ありげな視線など……菜々にどこか小悪魔的な一面があることは全く知らなくて、菜々の昔とは変わった部分に思わず目を白黒とさせたのだった。



<調査結果>

・七瀬菜々はアンラッキーではなく、実はアンラッキーを装っていた。

・自分のヘマを何でも不運のせいにしがちなので、俺が見張ることになった。

・嘘をつくのがやけに上手くなっていて、困惑させられた。今後注意が必要だ。

・一方で七歳の頃には、本当にアンラッキーな出来事があったらしい。それが何なのか、今後調査が必要だ。





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七瀬菜々は本当にアンラッキーなのか?【KAC2023 6回目】 ほのなえ @honokanaeko

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