ひとの心はやじろべえみたいなもので、多少荒っぽくつつかれてもその衝撃はゆらゆらと揺れて吸収されますが、バランスを取っている重しが少しでも欠けるとと、途端にあっけなく落ちてしまいます。
一度バランスを失ったやじろべえは、これまでと同じようにつつかれても、バランスを取ることはできません。そこから、また、やじろべえがゆらゆらできるようになるには、すこしずつ重しのバランスを調整しては、そっと揺らし、を繰り返さなくてはなりません。
心のバランス調整を手助けし見守ってくれる人の存在の大きさ、これで元どおりなのか、今までどおりの刺激を受け流せるのか、その見極めにいかに本人と周囲の繊細さが要求されるかなど、考えさせられる作品です。
ささやかな幸せは、少しずつ狂い、主人公は心に傷を持ったまま家を出た。
そして主人公は同じように心の傷を持った仲間が集う、シェルターに身を寄せる。少しずつ外に出て、少しずつ働いて、少しずつ立ち直っていく。例えまた誰かを想うことが出来なかったとしても——、そんな風に感じていた。
そんな日常の折、主人公をある男性が助けてくれた。男性は主人公に心を寄せ、優しく寄り添ってくれた。そして……。
他人をただ好きになること。
それが、自分の心の傷と向き合うことと表裏一体だった時、
貴方は、自分の心にどこまで正直にいられますか?
静かな文章で綴られる心の傷と、徐々に閉ざされていた視野が回復していく様子が印象的な一作でした。
是非、御一読下さい。
胸が締め付けられるような展開で、雨上がりの終わり方に、いつまでも余韻を味わいました。
過去のトラウマって、そんなに簡単に忘れるものではなくて、自分もいくつかのトラウマを、今でも夢に見ることがあります。人を信じることができないのも、過去の体験が影響していると思っています。
忘れ去ることができなくても、折り合いをつけて生きてゆくしかないと思っています。
主人公が辛い過去を振り返る場面では、自分の目の前で主人公が語っているような気がして、とても切なくなりました。主人公の内面が生々しく描かれています。
後半の、新たな出会いに続くエピソードも、都合の良い出来過ぎた展開とは違い、淡々としながらも見事な夜明けが描かれていました。
たとえ夜明けが曇り空でも、雨上がりの朝を歩き出したい気持ちになれました。
私も雨上がりには外に出たいと思います。
心に残るステキな作品をありがとうございました。