一年目 ハル
一年目 ハル(一)
森の中で、少女は目を覚ます。
薄っすらと開いた目に映るものには、全て色が無い。
空も森の木々も数頭の群れをなして飛ぶ鳥も全て。
不意に、温かさを感じてぼやけていた視界が鮮明になり、視界いっぱいに景色が広がった。
傍には、黒猫。身体を丸くして、気持ちよさそうに眠っている。
ぼんやりとした少女の意識が食欲を刺激する匂いで急速に覚醒した。少女はゆっくりと身体を起こし、顔を匂いのする方へ向けた。
幼さの残る顔立ち、筋肉質な身体。背は、少女より明らかに高い。一際目を引くものといえば、瞳の色。
少年の瞳の色は、水のように澄みきった宝石のような美しい碧色。
少女はといえば、黒髪、真っ直ぐに伸びたストレートの髪、右目は吸い込まれそうな漆黒、左目は踏まれたことのない陽を反射する、雪色の目。
血色が悪く、色素の薄い肌。
所々にある出来物は、疲労がとりきれていないことが顔に滲み出ている。
少女は寝癖を手櫛で簡単に直す。髪が荒れているせいで途中で指に髪が絡まるため、丁寧に解きほぐす。
腕を上に伸ばし、身体の芯を伸ばす。息を深く吸って、ゆっくりと息を吐き出す。新鮮な空気が肺を抜け、さらに意識を覚醒させた。
焚き火に薪をくべていた少年は、少女が起きたことに気がついて手を止めた。ニコッと愛嬌のある笑顔を少女に向けた。
「ミヨ、おはようさん! よく寝てたな」
「……おはよう、マヒロ」
マヒロと呼ばれた少年は手についた煤を払った。用意していたお皿を手に取ると柔らかな口調でミヨと呼んだ少女に言葉を続けた。
「飯、食うだろ?」
「……うん」
「いいタイミングで起きたな! 出来立てだぜ!」
「……ありがとう」
ミヨは頷いて腰を上げ、焚き火の元へと歩いていく。黒猫のミヤは身体をゆっくりと伸ばして、欠伸を一つして主人であるミヨの後に続いた。
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