シキサイの魔女

銀猫

プロローグ

シキサイの消えた日


 昔、世界には色彩があった。

 燃えるような夕日色、目の覚めるような朝日色、静かな夜に浮かぶ月の色。

 美しさや儚さ、喜びや悲しみ、出会いや別れ、そこには色があった。

 世界は、色彩に満ち溢れていた。

 それを当たり前だと思っていた。


 当たり前は、突然失れてしまった。

 『色彩の魔女』が死んだ日に。

 世界から、すべての色彩が消えたのだ。


 人々はイロを忘れた。

 そこにあった思い出も、感情も記憶も共に人々から消えてしまった。元から無かったかのように。

 ただ、無気力にただ機械的に、ただそこで存在し置かれている存在になった。

 全ての時が止まったような、静けさだけを残して。


 そんな世界で一人、立ち上がった者がいた。


 今は亡き色彩の魔女の忘れ形見であり、たった一人の後継者。そして、この世界に最後に残った魔女。

 ただ、彼女は全てを受け継いではいない。  

 全てを託される前に、師は亡くなった。

 残されたものは、知識と意思、使命。古ぼけて今にも読めなくなりそうな分厚い手記だけ。


それでも……

彼女は、色の消えたこの世界に再びシキサイを彩るために世界を巡る旅に出た。



『ワタシが死んでしまったら、君にワタシの意思を想いを託すよ。ワタシが愛したこの世界を、どうか頼んだよ』



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