きららむし4

鳥尾巻

夜光虫

 深夜に喉が渇いて2階の自分の部屋から出ていくと、玄関の方でゴソゴソと音がする。こんな時間に誰?

 怖いモノ見たさで恐る恐る階段の上から下を覗くと、そこにはお祖父ちゃんがいた。夜中だというのに普段着のお祖父ちゃんは出かける準備をしている。やだ、深夜徘徊?ホッとしたのと同時に心配にもなる。


「お祖父ちゃん」

「起きてたのかい」

「うん。お祖父ちゃんこそ夜中なのに出かけるの?」

「まあね」


 珍しく歯切れの悪いお祖父ちゃんは困ったように白髪頭に手を添える。少し迷った末、悪戯を企む子供の笑みを浮かべた。


「奈子も一緒に行くかい?夜の散歩」

「どこへ?」

「来れば分かる」




 好奇心に負けて財布と携帯だけ持ってついて来た近所の浜辺。もうすぐ5月だけど夜の海は少し寒い。お祖父ちゃんは黙って海の方角を向いて何かを待っている。

 夜空に浮かぶ丸い月、遠くに霞む工場群の灯りが明滅して綺麗。これで隣にいるのがイケメン彼氏なら最高にロマンチックなんだけどな。


「ほら見て」


 前にいたお祖父ちゃんの声に促されて波打ち際を見れば、打ち寄せる波と共に、青白い光がゆらりと波間に浮かぶ。


「わあ、すごい」

「夜光虫だよ」


 思わず歓声をあげると、急に隣で声がして、驚いて横を見た。そこには前髪を風になびかせた同じクラスの三森みつもり世那せな君が立っていた。いつもは眠そうな奥二重の目が月明かりと夜光虫の青白い光を映してキラキラと輝いている。


「やっぱり君も来たんだね」

「そろそろ時期かと思って」


 お祖父ちゃんの古書店の常連で茶飲み友達でもある彼。2人とも私そっちのけで楽しそう。夜光虫がプランクトンの一種だとか生物発光の仕組みだとか。良く分からないけど綺麗なものは綺麗。


 それにしても三森君がこんなに生き生きしてるの初めて見たかも。いつも夜更しだから昼間眠そうなのかな。意外と悪くないと思ってしまったのは幻想的な光景のせいかもしれない。

 

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