【完結】 猫です。拾ってくださいわん。

ファンタスティック小説家

人間に恋をした


 たぬきは青年に恋をした。

 蒼い作業着を着た爽やかな男の子だ。


「森へお帰り」


 彼は森で害獣を駆除することが仕事だった。ただ、たぬきは狩猟対象外だった。なので罠にかかった鈍臭いたぬきを放獣してあげたのだ。

 たぬきは青年の優しさに心を打たれた。トゥンク。恋のはじまりだった、


 罠にかかった足のワイヤーを外してもらっても、たぬきは逃げなかった。


「ほら、はやく帰りなって。ぐあー、食べちゃうぞ」


 青年は落ち葉の降り積もった地面をパリパリ鳴らして手で叩く。驚かしてたぬきを帰らせようとする。


 ようやく立ち去るたぬき。

 青年は罠を仕掛け直して、山をあとにした。

 翌日。青年が再び、山に確認しにくると、ずんぐりむっくりした毛玉が罠にかかっていた。

 昨日のたぬきであった。


「お前、また引っかかっちゃったかぁ。ん? 今日は頭に葉っぱを乗っけてるな」


 青年は「鈍くさいやつだなぁ」と思いながら、罠を解除してあげようとする。


「どうもこんにちは」

「え?」


 たぬきは流暢に喋る。

 青年は固まってしまう。

 

 たぬきは狡猾であった。

 恋に目覚めた彼女は、どうすれば青年と暮らせるかを考えた。

 

「たぬーたぬー(訳:どうすれば人間の男の子に家に転がり込めますか?)」

「たぬっ(訳:たぬきのままでは害獣扱い、無害な獣に化ければヨシ!)」


 たぬきは古来より一族に伝わる変化の術をつかって姿を変えた。


「猫です。拾ってくださいわん」

「喋ってるけど、勉強不足だな……」

 

(というか、頭に葉っぱ乗ってるだけで、見た目はまんまたぬきだな)


 たぬきは未熟であった。変化の術は失敗している。

 だが、当のたぬきはそのことに気がついてはいない。

 たぬきの姿のまま、猫撫で声で「わん」と鳴き、ゴリ押ししてくる。


「猫です、大好きです、お願いします、いっしょに暮らしたいわん」


 ぐちゃぐちゃだったが、可愛かった。

 青年はたぬきの努力を評価し、家に連れて帰り、ふたりは末永く幸せに暮らした。

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【完結】 猫です。拾ってくださいわん。 ファンタスティック小説家 @ytki0920

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