グチャグチャ

尾手メシ

第1話

 ある男から話を聞いた。なんでも、とある山間にグチャグチャという鳥がいるのだという。人前に姿を見せることは滅多にないが、その姿は既存の鳥類とは一線を画しているとのことだった。さては新種か奇形の類だろうか。仮にどちらだとしても、これは大変な発見になる。矢も盾も堪らず調査に赴いた。




 山間に川が流れている。その川の片方、山と川に挟まれた僅かな隙間に、細長く三十軒ばかりの集落があった。電車を乗り継ぎ、日に二本しかないというバスに揺られて辿り着いたそこは、聞きしに勝る田舎である。宿はないから神社を頼れ、という助言に従って、村に似つかわしくない立派な神社を訪ねてみれば、出迎えたのは白装束を着た女神官だった。

「グチャグチャですか?ええ、ええ、この山におられますよ。まぁ、調査に。そういうことでしたら、ここを宿としてお使い下さいな」

トントン拍子に話は進み、神社を拠点に調査をすることとなった。


 調査の進みは芳しくなかった。朝から晩まで山に分け入ったが、見つかるのは普通の鳥ばかり。村人にも尋ねるが、姿を見たものは誰もいない。ただ、不思議なことに、その存在自体を疑う者もまた誰もいなかった。雲を掴むような話で、さては担がれているのかとも不安になる。女神官が毎夜してくれる酌だけが心を慰める。


 一週間が経ったが何の成果も得られない。帰ることを伝えると、女神官は残念がった。

「そうですか……では、せめて今夜は存分にお楽しみ下さい」

 この酌で呑む酒も最後と思うと、名残り惜しくはある。ついつい、いつもよりも杯が進んだ。

 酔いで揺れる頭に女神官の吟じる声が響く。

「グチャはグシャへと変じ愚者へと通ずる。愚者は空者くうしゃへと転じて、これ即ち神者こうしゃなり」

 女神官が死装束の前を解いて翼を広げた。

 世界が回る。世界が交わる。

 散々に掻き乱される。

 世界が果てる最後の瞬間に、グチャグチャと二羽の鳥がいた。

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グチャグチャ 尾手メシ @otame

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