お兄ちゃんとカオス理論と、ときどき蝶々
笹 慎
どうでもいいから部屋片づけなよ
兄から「片づけを手伝ってくれ」と頼まれて、春の暇を持て余した大学生である私は某遊園地のチケット代をお駄賃にそれを引き受けた。
久しぶりに訪れた兄の部屋は、なんとも酷い有様だった。
「お兄ちゃんさ、論文なんで印刷してるの? PDFのまま読みなよ」
机に乗り切らず床に積まれた書類と書籍の山、山、山。デスクトップパソコンの
私が論文と思しき書類群と書籍の山を崩していると、兄は「ダメダメ!」と素っ頓狂な声を上げて、ギュウギュウな本棚の前から飛んできた。
「理由があって、そうしてるんだから変に分けないでよ!」
「いやいや、そうだとしても、ぐちゃぐちゃすぎるでしょ。カオスじゃん」
「お前、カオスとぐちゃぐちゃは違うだろ。カオスってのは、まだ人類がたどり着けていない物理法則に従って動いてる物質の運動を指してるにすぎないんだから」
兄の
ビニール紐で十字に縛って玄関に運ぼうと立ち上がった瞬間、パソコンを冷やしていた扇風機のコードに
扇風機がパソコンに向かって倒れ、その上の書類の山が雪崩を起こす。
パソコンを助けようと焦った兄が落ちていた紙に滑って机の上に倒れこむ。
すると今度は机の上の書籍と書類が床に散乱。
兄を助け起こそうと私が雑誌の束を慌てて落としたら、それが机の上のパイプベッドの脚に当たってベッドを大きく左右に揺らした。
振り子のように軋んだパイプは隣の本棚を大きく動かして、本棚の上に積まれた分厚い書籍がドカドカと床に落ちる。
「……これがバタフライ効果」
兄は感動して、そう呟いた。
お兄ちゃんとカオス理論と、ときどき蝶々 笹 慎 @sasa_makoto_2022
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます