ハル・うらら (女性読者様は自己責任でお読み下さい)

福山典雅

ハル・うらら

私は困惑していた。


春先にドライブをしながら、ラジオからは気楽な音楽が流れていた。芽吹き始めた新緑はまだとてもささやかなものだが、生まれ来る生命の息吹は逞しい。


だが私は突然ある事を思い出し、激しく涙を流してしまった。


急いで車を路肩に止め、パーキングブレーキを入れた。私は思わずハンドルを強く握りしめ、しがみつく様に嗚咽した。もう何もかも忘れて嗚咽した。震える肩が、小刻みに揺れる唇が、溢れる涙が、突然沸き上がった感情が、私の全てを無情に支配し、ただ泣き崩れるしかなかった。


困惑した私の涙は更なる困惑を生み出し、どこまでも私を責め立てる。もう取り返しのつかない事になっているのは判っている。それでも私は救い求める様に、ただ激しく慟哭するしかなかった。


人生と言うモノは多くの教訓を授けてくれるが、それは今ではない。不幸が現在進行形で襲う時、冷静に教訓などと言うモノについて考える事など出来ようはずがない。


私は自分の頭をハンドルに叩きつけた。


馬鹿だ、馬鹿だ、私は馬鹿だ。


激しい津波の様な自責の念が、私の心をぐちゃぐちゃにし、情けない想いは私の魂をズタズタに切り裂いた。激情が許せない自分に向けられ、さらなる自傷行為を呼び、私は何度も何度も自らの頭をハンドルに叩きつけた。


外では春の息吹と共に陽光は随分と暖かいというのに……。


私の心はどうしようもなく、惨めで無残な衝動で埋め尽くされ、誰かに助けを求める事も許されない。これは全て私の責任なのだ。私が全ていけないのだ。私が犯した罪なのだ。


耐えきれない呵責が次々と襲い来る。地獄から溢れる様な負の想念。私は辛うじて自我を保ち、この嵐の様な感情で己を燃やし尽くし、耐えがたい屈辱の海に無造作にその身を堕とす。


愚かだ、私は愚かな生き物だ。


絶望は先の見えない深い闇を生み出し、腐敗した精神は希望を情け容赦なく蝕む。もう一切の救いは残されていない。終わりだ、取り返しのない終わりだ。


ああ、何という不条理、今この瞬間、私は自らの存在意義を否定し、人生に決定的な敗北と無念を刻まなければいけない。





ちなみに、私は変態だ。


春先に真っ裸でコートを来て、道を歩く女子高生に「おりゃあ!」と下半身をさらけ出し脅かすのが趣味だ。爽快である。


しかし、今日はその大切なコートを家に忘れて来てしまった。


私は下校時間の女子高生達を横目で見ながら、ぐちゃぐちゃな悲しみにくれた。





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ハル・うらら (女性読者様は自己責任でお読み下さい) 福山典雅 @matoifujino

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