絶叫

高柳孝吉

絶叫

 あたしね、そのぬいぐるみのぬいちゃんが大好きだったの。友達だった子にいじめられても、誕生日にママがおいしいケーキを焼いてくれた日も、ぬいちゃんはいつもあたしに抱きついてくれた。あたしはそのぬいちゃんをやさしくなでなでしてあげた。      

 でもね、ある日ぬいちゃんは、あたしをひっかいてきたものだから、あたしは、

「おいたしちゃ、めっ!」

って、つよくぶったの。ーーそしたらね、ぬいちゃん、動かなくなったの。あたしはびっくりして、何度もぬいちゃんをゆすったけど、ちっとも動かないの。しゅじゅつ。あたしは、ずかんで見たことのある絵を思い出して、近くにあったハサミでぬいちゃんのおなかを必死で切ったわ。そしたらね、おなかの中に、やっぱりずかんの絵の中にあったぬるぬる、ベチョベチョした何かが、ゆげを出していたの。あたしはあわてて、ぬいちゃんのおなかをとくいのぬいもので、針と糸でぬい直したわ。でも、ぬいちゃんは、二度と動かなかったの。あたしね、どうしていいかわからなくなって、ぬいちゃんをあたしの宝箱にしまって押入れのずっと奥におしこんだの。その時、お母さんが来て言ったの、

「プーちゃんはどこー?エサの時間よー。」


 あたしは高校生になった。その日までは、子供の頃あったあの事なんて、すっかり忘れていた。ある日、滅多に開ける事の無い押入れの中から、異臭がするのに気が付くと同時に、コンコン、コンコン、と何かを叩く音がした。あたしはいぶかしがって、押入れをそっと開けると、ますます異臭が強くなり、コンコン、という音もだんだん強く速くなり、しまいにはドンドン!ドンドン!という音に変わって行った。あたしは音のする押入れの奥に手を伸ばし、昔宝箱としてガラクタばかり入れていた物を引きずり出した。この箱で、昔何かがあった気がする。かなりの怖れと共に、あたしはその異臭とドンドン音のする箱の蓋をおそるおそる開けた…。

 そして、絶叫した。


 叫んだ次の瞬間、あたしは全てを想いだして、流れて来る涙と共に少し微笑んで、あの頃と同じようにあたしに抱きついて来たそのかつてぬいちゃんだった物を撫で撫でした…。

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絶叫 高柳孝吉 @1968125takeshi

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