こんなコーヒー屋は嫌だ
薮坂
コント「アンラッキーな喫茶店」
「あれ? 駅前にこんなコーヒー屋あったっけ。お、看板が出てる。なになに『あなただけの特別なコーヒーあります』だって? ちょうどノド渇いたし、俺コーヒー好きだし、いい雰囲気の店だよな。よし、入ってみるか」
チンチリーン。
「へぇ、ドアにウインドチャイムか。老舗の純喫茶って感じだなぁ。すいませーん」
「いらっしゃいませ、お客様」
「おぉ! ピシッとしたバリスタって感じの店員さんだ! これは期待できそうだな!」
「おひとり様でいらっしゃいますか?」
「はい、ひとりです。いやぁ、いいお店ですね! ウインドチャイムとか風情があって」
「あぁ、ちょうど読経中でして。チンチリーン」
「読経⁉︎ ウインドチャイムじゃなくて
「……ちなみにお客様、本当におひとり様で?」
「何で俺の後ろチラ見するのよ! 何か憑いてるかと思うじゃん! ひとりです、間違いなくひとりです!」
「かしこまりました。では……、おや? 店内が満席ですね」
「いやいや結構空いてるよ⁉︎ なにこれ俺だけ見えてないとか⁉︎ ねぇ、いるのまさかそこに⁉︎」
「あ、今ちょうど逝き……いえ空きました」
「逝くって言った! 今逝くって言った!」
「ではお客様、奥の墓石へどうぞ」
「お席だよね!
「お客様、ラッキーですね。あちらはなかなか空かない当店人気のカップルシートなのですよ。窓際に並んで座るタイプのシートで、美しい川が眺められて、さらには左から7番目。ふふふ、まさにラッキー7。そこに座ったカップルは未来永劫一緒にいられるという噂です」
「いやどう考えてもアンラッキー7だから! 意外と店広いね⁉︎ あと繰り返すけど俺おひとり様だからね⁉︎ 誰と未来永劫一緒なんだよ! もういいよ、とりあえずそこ座るよ怖いけど!」
「さて改めましてお客様、ようこそいらっしゃいました。こちらがメニューと、そしてお冷やです。ピッチャーごと置いておきますね」
「ピッチャーが
「さて、ご注文はお決まりですか?」
「聞くの早いな! まだメニュー見てもないから! ええと……あ、そうだ。外の看板に『あなただけのコーヒーあります』とかって書いてましたよね? あれってどんなのですか?」
「あぁ、アレですか。お客様の今の気分を聞きまして、それを元に私が創る至高の一杯、とでも言いましょうか。そちらをご所望で?」
「じゃあそれでお願いします。今の気分はそうだな、ちょっと暑くなってきたんで、キリッと冷えたアイスコーヒーって感じですかね」
「レイスコーヒーですか?」
「いやアイス!
「あぁアイスですか。他にご希望は?」
「あと俺、水出しコーヒーに興味あるんですよ。口当たりがまろやかになるって聞いたんで、できれば水出しアイスコーヒーがいいですね」
「かしこまりました。炊き出しアイスコーヒーですね」
「いや炊き出してどうすんのよ! ホットかアイスかわからない! そしてここはあれか? ホームレスが集う喫茶店なのか?」
「いやぁお客様、集っているのはハートレスですよ」
「やっぱお客みんな死んでんじゃん!」
「ではご注文を繰り返させて頂きます。お客様は水出しアイスコーヒー、お菊様も同じものでよろしいですか?」
「お
「ラッキー7のカップルシート、その特典でございます。カップルシートにおひとりでは寂しいでしょう? 未来永劫、一緒ですよ。お祝いしますね」
「いらねぇよマジで‼︎ 未来永劫の呪いじゃねーか!」
「それとお客様、水出しコーヒーには相応の時間を要しますが、お時間に余裕はございますか?」
「え? あぁ、ポタポタゆっくり淹れるからか。大丈夫です、今日は時間あるし。一時間くらいですか?」
「
「成仏待ったなァし! どう考えても時間つーか日数かかりすぎだよ!」
「時短の
「それでも長いよ! あと『初』っていらないよね⁉︎ どうして成仏に絡ませるかなぁ! それもこっちにとってはアンラッキー7だよ、まったく。もういいよ、水出しコーヒーはキャンセルで!」
「お菊様は?」
「お菊様ごとキャンセルだよ当たり前だろ⁉︎ 勝手に変な人形置くなよな! 持って帰れよマジで!」
「かしこまりました。お客様、代わりのご注文はいかがなさいますか」
「もう何でもいいですよ、早く作れるのなら何でも。普通のアイスコーヒーでいいや」
「かしこまりました。ではこちら、普通のアイスコーヒーです。コトリ」
「早いな! 絶対用意してたよな! あと『コトリ』とか口での効果音いらないから!」
「いえ、これはセットのコトリバコから出ている音です」
「怖ぇよ! なんであの有名なコトリバコがセットなんだよ! あとお菊様持って帰れって言ったろ! なんでどっちもコトコト言ってんだよ、特級呪物のよくばりセットかよ!」
「当店自慢のサービスです。皆様に喜ばれておりますので」
「うん、きっとサービスの意味わかってないな! ちなみにそれどこに需要あんのよ、どんな客層なのよこの喫茶店は⁉︎」
「そうですね。入店時は元気のないお客様が多いのですが、当店のコーヒーを召し上がられたらまさに天にも昇る心地だと──」
「やっぱ成仏じゃん! 召されてるよ天に! ああくそっ、ツッコミすぎてノド渇いてきたよマジで!」
「ではアイスコーヒーをゆるりとお楽しみください。お好みでミルクと、お清めの塩を用意しておりますので」
「惜しい、砂糖だなそこは! 見た目似てるけど! あともっと言うならアイスコーヒーにはガムシロップだよ! 砂糖は溶けにくいのよ冷たいのには! どこが『特別なコーヒー』なんだよ、全くもう!」
「……特別なコーヒー?」
「いや店の前の看板に書いてたでしょ、特別なコーヒーって」
「失礼ですがお客様の見間違いでは? ウチの看板には『告別なコーヒー』と書いてあるのですが」
「
「ハカーバックスコーヒー、
「墓場⁉︎ なんつーネーミングしてんだよ! もうガッツリ怒られろマジで! くっそ、なんて店選んじまったんだ! マジでアンラッキーだよ‼︎」
【臨終】
こんなコーヒー屋は嫌だ 薮坂 @yabusaka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
今夜も眠らない。/薮坂
★58 エッセイ・ノンフィクション 連載中 36話
俺とポン太/薮坂
★114 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます