Blue eyes Rabbit

る。

青い目をしたうさぎさん

   Alice's adventures in Wonderland  


 彼女はそう題された一冊の洋書を手に取って、パラパラとページを捲っていたかと思うとそのまま没入した。俺も何か探そうかな、いやその前にコーヒーをお代わりしよう、と立ち上がる。

 デートの帰りに立ち寄ったブックカフェは、商業施設の一、二階の殆どを占有し二階の中央には大小様々なソファが置かれ広いリビングの様を呈している。デートで試したVRを用いる『電子書店』は彼女には不評で、こちらの方が肌に合うようだ。


「コーヒーとカプチーノを一つずつ……砂糖は要りません」


 出来上がりを受け渡しランプの下で待っていると、ふと目が合った。

 ショーウィンドウに鎮座する巨大な白いうさぎのぬいぐるみの……ブルーグレイの瞳と。

 兎で青い目は珍しい。ギンガムチェックの襟を覗かせベストを着込み、まるで英国紳士の佇まいだ。今にも胸から懐中時計を取り出しそうな――

 ふ、と口元が緩む。

 不思議の国のアリス――自分が主人公になる仮想物語空間バーチャル・ワード・ワールドの舞台に彼女が選び、そして自由に姿を設定できるキャラクターとして俺は白うさぎに選ばれたらしい。

 不思議な、こそばゆい気持ちだ。彼女のことだから特別な意図はないと思うが、自分がずっと追いかけて漸く隣の席を手に入れた、その彼女に追いかけられた、、、、、、、自分白うさぎがどこかに存在するかと思うと。

 愛おしさが込み上げる。やっぱり彼女が読み終わるまで、その姿を眺めていよう。何かの本は取ってカモフラージュをしながら。

 


「あ、ごめんなさい、つい夢中になっちゃって。帰りましょう」


 既に会計を済ませたようで彼女は本を鞄に仕舞い込んだ。

 温かい紙コップを片手に帰り道を歩く。

 ――原文の妙もあるけど自分を主人公にして読むのも悪くないかも……

 VRに感化されたことを告白して、彼女がついと袖を引く。ポケットに入れていた手をうさぎのキーホルダーごと取り出した。

 




 

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Blue eyes Rabbit る。 @RU-K

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