長旅
冬野瞠
とある屋敷にて
お疲れでしょう、良かったらどうぞ、と老婦人が穏やかに言って小皿を私の前に置く。皿の上には、スノーボールクッキーのような白く丸いものがちょこんと盛られていて、とても美味しそうだ。
ただ私はそれよりも、重厚な洋館を埋め尽くす
「すごい屋敷でしょう、驚かれた?」
老婦人の言葉に、私ははっとなった。他人の家をじろじろ観察するなど不作法にすぎる。
相手は気にする素振りも見せず、広間をぐるりと見渡した。
「昔からぬいぐるみが好きでねえ。その中でもテディベアは格別で。一口に熊のぬいぐるみと言っても、作り手によって個性がばらばらだからかしら。でも私、知らないままに集めていたの。同じ種類のぬいぐるみを一定の数以上集めると、その後はぬいぐるみの方から自然と集まってきてしまうって」
老婦人は凪の日の海みたいに
「大切にされた物には魂が宿るって言うでしょう。きっとぬいぐるみは
目元を細めていた相手が、ふと私の方を見る。ないはずの心臓がどくりと跳ねた気がした。
「あなたも遠くからいらしたんでしょう? 見たところ長旅でやつれていらっしゃるし、それを召し上がってゆっくりして下さいね」
私の目の前に置かれた
縫い合わされた関節を不器用に動かしながら、私はぎこちなく頷いた。
長旅 冬野瞠 @HARU_fuyuno
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