ケッコン

御角

ケッコン

 妻と出会ったのは、確か十年ほど前でした。当時は引っ越してきたばかりで。お隣に挨拶に行って、そこでぱったりと。

 もちろん一目で恋に落ちました。でもね、残念なことに、その後またすぐに僕は引っ越してしまいまして。彼女のことは諦めたんです。

 だから驚きましたよ。近所のリサイクルショップで再会した時は本当に、自分の目を疑いました。

 しかも。さらに驚くべきことに話しかけてきたのは彼女の方からだったんです。

 覚えてますか? 私のこと、ってな具合でね。そこからはもう、とんとん拍子でした。まあ籍はいれていないので、あくまで内縁の、ということにはなりますが。

 惚気のろけるなって? まあまあ、ここからが本題ですから。

 ……妻がね。嫁入り道具に人形を持ってきたんですよ。と言っても和風なやつじゃなくて、こう、子供がよく持ってる大きなぬいぐるみみたいな。

 別にそれ自体はいいんですがね。その人形、よく見たら血痕がついてるんですよね。ケッコン。

 それで何気なく聞いてみたんですよ。血がついてるけど洗濯しないのか、と。

 そうしたら彼女、泣いちゃって。なんでも両親が死んだ時の形見だそうです。だからそのままにしておきたいと。ええ、血痕も含めて。


 だからね、僕。その人形を、洗濯機にぶち込んでやったんです。だって、気持ちが悪いでしょう。

 その血からバレたら怖いじゃないですか。僕が殺人犯だなんて。

 ……ま、結局こうして捕まってしまったわけですが。思えば彼女は知っていて、僕に近づいたんでしょうね。


 ところで刑事さん。彼女は、妻はどうしてますか? ぬいぐるみを洗ったあの日から帰って来なくて。どうせ彼女が情報源でしょう。十年もかけて探すほどですから。

 え、違うんですか。おかしいな。じゃあ彼女は今、どこに。

 ……なんですか、これ。昔の新聞? 僕、文字を読むのは嫌いなんですが。


『一家惨殺事件の生き残りだった少女、後追い自殺か』

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ケッコン 御角 @3kad0

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