小さなロバと銘打たれたその移動式古書店は縁を求めて今日もどこかを旅する

那智風太郎プレゼンツ『桜猫企画』優秀作品 Best 6

稀覯本からはらりと落ちた一枚のスナップショット。
そこには舞い散る桜のもとに佇む老婦人と艶やかな毛並みの白猫が写っていた。
移動式書店を生業とする彼は背景から写真が撮られた場所を突き止めてフットワークも軽くロバを駆らせてその地へと赴いた。

サクサクと読み進めてしまう軽やかで洒脱な文体。
眺める風景がまるでそこにあるかのように錯覚する巧みな描写。
どこかそこはかとないい郷愁を感じさせる登場人物たちの趣き。

それらが渾然一体になったこの作品を読み終えて、爽やかなハーブティーを連想したのは果たして僕だけだろうか。