むらさく主従は彼方を歩く。
四葉くらめ
プロローグ
遙か昔、世界は満ち足りていたのだという。
そこには様々なものがあった。
樹があった。
車があった。
光があった。
平和があった。
戦争があった。
嘘もあれば真実もあり、善意と悪意はすぐ近くで共存していた。
様々な人がいて、物があって、感情があって、現象があって――、世界はすべてを含んでいた。
そんな世界が長く続いて、とうとう世界はそれに耐えられなくなってしまった。
当然と言えば当然なのかもしれないし、予想外と言えば予想外だったのかもしれない。
当時の人が世界の崩壊に対してどう思っていたのかはわからないけれど、当時の人がなにをしたのかは知っている。
世界は様々なもので満ちている。
満ち過ぎている。
それなら〝なにか〟を取り除いた世界を新たに作ろう。
ある世界からは〝樹〟を取り除き、
ある世界からは〝車〟を取り除き、
ある世界からは〝光〟を取り除いた。
〝なにか〟が欠けた無数の世界を『方舟』に乗せて、遙か昔の人々は崩壊しかけの世界から旅立ったのだった。
いつかまた、満ち足りた世界で住めますようにと願いを込めて。
そうして、僕らは〝なにか〟が欠けた不完全な世界――『彼方』で今を生きている。
むらさく主従は彼方を歩く。 四葉くらめ @kurame_yotsuba
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